第10章 真っ白なページ
「……俺の心配より、お前の体調はどうなんだ?」
帰蝶はそう言って、私の頬に当てた手を外した。
いよいよ本題なんだ。
「帰蝶は、私の体調不良の原因を知ってるんだよね?」
「単刀直入だな」
帰蝶はまたふっと笑って、私に一冊の本を出して見せた。
「何?」
「手に取って開いてみろ」
「?」
渡された本は懐かしい物だった。
「これ…私の日本史の教科書?」
叔母の家を追い出された時に持って来た、私の数少ない荷物の一つだった高校の歴史の教科書。
(何だか懐かしい)
叔母の家を追い出されてから随分と時が経ったように思えるけど、実際はまだ一年足らずだなんて信じられない。
(あれから、随分と色々なことが変わってしまった)
あの頃のことを思い出しながら、パラパラと教科書のページをめくって行く。
旧石器から縄文、弥生、古墳と、懐かしい文言とイラストが目に入ってくる。
更にページをパラパラめくって行くと…
「………あれ!」
あるページからその先は、どれだけめくっても真っ白なページがあるのみ……
「印刷ミス?」
(でも使ってた頃は、こんな事なかったよね……?)
「よく見ろ。何かに気がつかないか?」
「?」
そう言われて、もう一度白くなったページとその前の印刷されたページの中身を見た。
「……えっと……、安土桃山時代から先の時代が…消えてる……?」
室町まではしっかりページがあるのに、安土桃山の途中から先のページが真っ白だ。
「どう言う事?」
「歴史が変わったと言う事だ」
帰蝶のその言葉でハッとなりページを再び見ると、本能寺の変の記載の前までのページしかない。
信長様の人生を変えてしまったと、今まで何度も思って後悔して来たけど、私は、その本質的な意味を全然分かっていなかった。
「これ……私のせいで……!?」
「お前のせいではない。俺が望んでお前にさせた事だ」
帰蝶は私の震える手から教科書を取ってページを閉じた。