第10章 真っ白なページ
そもそもあの文を信用していいんだろうか……?
文を受け取ったばかりの時には動揺したけれど、時間の経過と共に頭は冷静になり、あらゆる可能性を探り出す。
また…何かに利用するための罠なのかも……?
堺の商館での出来事はまだ記憶に新しく、思い出すだけでも胸がずきりと痛む。
だからやっぱり、行かない方がいい。
「何を考えておる?」
「えっ?」
先ほどの文のことを考えていたら、信長様の声に意識を呼び戻された。
今は信長様の腕の中。
私の寝間着が暴かれている事にも気がつかないほどに、文のことを考えていた。
「すみません」
「何か、気に掛かることがあるのか?」
上の空の私を、真紅の瞳が見据えた。
「いえ、何も……」
信長様に言えるはずのない悩みを誤魔化す様に、信長様の首に腕を回して抱きついた。
嘘をついている事がこんなにも苦しいなんて知らなかった。
嘘は嘘を塗り固めることでしか誤魔化せない。
そんな思いを気取られない様にしなければ……
私の腕を解いた信長様は私に口づけを落とす。
「ん、」
深まる口づけと私の胸を掴む大きくて熱い手が、久しぶりに肌を重ねる事を伝えてくれているのに、どうしても文のことが気になってしまう。
行かない方がいいに決まってる。
でも、本当にこの体調不良の原因を知っているのなら会って聞きたい。
でも、罠だったら?
行ってまた堺に連れて行かれたら?
またあの将軍の相手をしろと言われたら?
また信長様に迷惑をかけてしまう。
「………心ここに在らずだな」
信長様は唇を離してそう呟くと身を起こした。
「ごめんなさいっ、私……」
私も急いで身を起こしたけれど、それよりも早く信長様は立ち上がった。
「……っ、信長様……?」
「外の風に当たって来る。貴様は先に寝てかまわん」
自身の着物の乱れを直して、信長様は部屋から出て行ってしまった。
怒ってはいなかったけど、寂しそうに去って行く横顔に胸がツキンと痛む。
こんな中途半端ではダメだ。
嘘を突き通さなければならないのなら、せめて真実を知る必要がある。
明日、帰蝶に会う。
それで最後にする。