第10章 真っ白なページ
「ん……」
急な口づけに驚く間もなく舌が割り込み、私の口内を暴れ回り呼吸を奪って行く。
「ん、………ん、ぁ、…………はっ、……はぁ、」
「っ、紗彩……」
唇を離した信長様は、額と額を合わせ鼻先を擦り合わせて切ない吐息を吐いた。
「あまり可愛いことをするな、我慢が効かなくなる」
「………っ、ごめんなさい」
ダメだ。何をしても言われても胸が痛いほどに鼓動を刻む。
私の体調に気遣って一緒の布団に寝るだけの日々が続いていだけど、そんな風に感じていてくれたなんて……
こんな時こそ、他の女性のところへ…と言わなければいけないと分かってはいるけど、今はもう考えるだけで胸が苦しくなるから言えない。
本当に自分勝手で最低だ。
それにしても、寛いでもらうつもりが、余計に疲れさせてしまったことは、とても申し訳ない。
どうすれば良いいかを再び考えていると、
「せっかくだ。休ませてもらう」
「え?」
信長様がそう言うや否や、ドサッと、膝に重みを感じた。
「えっ、えっ」
「暫し休む。四半刻ほどで起こせ」
そう言って信長様は目を閉じてしまった。
(………っ、心臓ドキドキいってるのバレてないかな)
自分で提案しておいて何だけど、膝枕って結構緊張する。それに、提供した側は何をすれば良いのか分からない。
(えっと、頭なでなでとか?…いや、それじゃあ起こしちゃうよね。あっ、じゃあフェイスマッサージとか?って、それも起こしちゃうよね)
(え…、膝枕してあげてる人って、みんなどうしてるの?)
「ふっ、まるで百面相だな」
行き場を失った両手を宙に浮かせたまま膝枕の役割についてあれこれ考えていると、信長様の笑い声が聞こえて来た。
「信長様っ!起きて……っ!」
「顔の上でそわそわされれば誰でも気になる」
「そうですよね。ごめんなさい」
「構わん。コロコロと変わる貴様の表情は見ていて飽きん」
信長様は私の髪をひと房手に取り、その髪に口づけ、
「……好きだ」
すごい言葉を口にした。
「……え?」
ちゃんと聞こえていた。聞こえていたけれども……
(ああ…人って、聞こえてはいても信じられない言葉が聞こえた時には聞き返してしまうんだ)
ただでさえ上がっている心拍数は爆上がりで、私の左胸を圧迫する。