第2章 出会い
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城へ帰り自分の部屋へ戻ると信長様が待ち構えていた。
「紗彩どこへ行っておった?」
声も顔も機嫌が悪いと伝えてくる。
「呉服屋へ……。仕立てた物を届けに行っておりました」
「届け物にしては、随分と時間が掛かったようだが……?」
鋭い目が私を責めるように射抜く。
「……お茶を、頂いておりました」
目を逸らせば、帰蝶と会っていた事に勘付かれてしまいそうで、私はその目に必死で食らいつく。
「ふっ、生意気な目だ」
「あ……っ!」
腕を掴まれ信長様の胸に倒れ落ちた。
「……この髪、初めて見るが貴様が自分で結ったのか?」
信長様はそう質問して、帰蝶に結ってもらった髪に触れた。
「……っはい。いつも同じ髪型ばかりでしたから…」
「……そうか、だが貴様には似合わん。これは二度とするな」
スルッと紐が解かれ、帰蝶に整えられた髪は一瞬で解けた。
「この絹のように美しい髪に合う簪を贈ってやる。それまではこのままでいろ」
「……はい」
帰蝶が私に残してくれた彼の痕が消えてしまった。
(何か…勘付いてる?)
私の髪を手にとっては梳いて、サラサラと落ちてゆく髪をまた手に取ってと、信長様はそれを何度も繰り返す。
そして突然、ピタリとその動作が止んだ。
「香の匂いだな…」
クンッと鼻を動かした信長様は、私の襟元に鼻を寄せて匂いを嗅いだ。
「俺とは別の、男の香りだ」
ドクンっと、胸が嫌な音を立てる。
(大丈夫、落ち着いて…)
動じないように軽く息を吸ってから、帰蝶に言われていた言葉を口にする。
「今日行った呉服屋の香だと思います。いつも店内でご主人が香を焚いておりますから…」
(声は震えてないだろうか?顔色は変わってない…?)
帰蝶の言う通り、信長様は勘が鋭い。
バレたら帰蝶の身に危険が及ぶのかと思うと、どんなに抑えても体は震え出した。
「俺が、そんなにも怖いか?」
ふぅっと息を吐いて、信長様は私を腕に閉じ込める。
「責めはせぬ。店の香が移ることもあろう。だが不快だ。今すぐ湯殿へと行きその匂いを落として来い」
「……はい」