第10章 真っ白なページ
「食えん男だ」
「ふふっ、憎めない人ですよね」
(うーー、政宗に無駄に気持ちを煽られたから、まだ顔が熱い)
平静を装う事は得意だったはずなのに、最近はそれが全く出来なくなってしまった。
「まだ、顔が赤いな。辛いのならば横になれ」
「大丈夫です」
心配してくれる信長様には悪いけど、顔が赤い本当の理由は体調不良なんかじゃない。
「それに、倒れたと言っても熱が原因ではありませんから」
そう、こんなに頻繁に倒れているのに、実は熱は一度も出ていない。
「熱があるわけではないのに無理言ってここで仕事もさせてもらって、かなりゆっくりさせてもらってるので心配しないで下さい」
医師の言う通り、栄養失調からくる貧血ならばいいのだけど……
「仕事などせずとも良い。他の者にやらせよ」
私の言葉を聞いても信長様はやはり心配そうだ。
「お気遣いありがとうございます。でも何かしている方が落ち着くんです。着物を仕上げた時の達成感はなかなか得られないものですし、私はこの仕事が好きなんです」
このお城で針子の職についたのは不純な動機だったけど、一反の布から着物になって行く過程が何とも言えず好きで、今では着物作りにハマっている。
「ならばもっと食べて体力をつけよ。でなければその仕事も今後は許可できなくなる」
「はい」
早く食べろと促され、お粥を一口、口に運ぶ。
それを信長様の目がじ——っと見つめる。
(っ、ずっと見てるのかな…)
食べ辛くて手の動きを止めると、
「どうした?やはり辛いのか?」
心配そうに問いかける信長様に、申し訳ないけど笑ってしまう。
「ふふっ、違います。信長様があまりに見てくるから恥ずかしくて食べ辛いだけです」
「食べねば治る病も治らん。貴様が食べ終わるのを確認せねば気が気ではない」
「っ、でも、食べる所をずっと見られるのは恥ずかしいです」
所作の綺麗な信長様と違って、私は食べ方に自信がない。
「慣れよ、見届けねば仕事が手につかん」
「っ………」
(政宗の言った通りだ……!)
こんなにもすごい人が、私の体調一つで仕事に支障が出るなんて言って心配してくれる。
その事実に頬がまたじわじわと熱くなる。