第9章 ぬくもり
私には私の闇が、信長様には信長様の闇があるように、母上様も母上様の闇に苦しんでいるのだろう。
私と信長様、お互いの手が触れ、どちらからともなくその手を絡めるように握り合った。
互いの温度を感じ合い、安心感が広がって行く。
手を繋ぐって、肌を重ね合い温もりを分かち合うことの出来る一番手っ取り早くて簡単な手段なんだ。
「……なぜ母上にあんなことを言った?」
「あ…….余計なことを言ってしまって、ごめんなさい」
「責めている訳ではない。だが貴様にとって何の益にもならん事を何故した?」
「それは…」
益にならないなんて身も蓋もない事を言われては答えようがないけど、
「なぜ俺を庇った?」
信長様にしては珍しく問いを重ねる。
「それは…信長様が悪く言われるのは…嫌だと思ったからです」
言い方を間違えないように、言葉を慎重に選びながら私は答える。
「それは、少なからず俺に気があるということか?」
「えっ!?」
(いきなり何っ!)
唐突な質問に頭がボンッと弾けた。
「答えよ」
隣り合わせで座っていた僅かな間合いをずいっと詰められた。
「……っ、信長様の事は…気にはなります」
「どのようにだ?」
(え、具体的に言うの!?)
もうこれ以上はと思うのに、真紅の双眼はそれを許さない。
「それは…戦に行かれれば心配ですし、悲しそうだと元気になって欲しいって思います」
「それはもはや、俺を好いておると思って間違いないか?」
「ええっ!」
(行き着くとこそこっ!)
「そ、それは…分かりません。私は———」
急に告白を迫られ慌てて顔を上げると、おもむろに信長様の顔が近づいてきて、
「…………」
唇を、何かが掠めた。