第2章 出会い
「それ位にしておけ」
火照りを帯びる私とは違い全く熱を帯びていない彼の目が私を制する。
「抱いて…くれないの……?」
「あの男は勘が鋭い、気づかれればお前が辛い思いをする」
「だったら、私をここに置いて。前みたいに帰蝶のそばにいさせて」
つらい思いって…帰蝶といられない事が一番辛いのに…
「辛いと感じているのならいつでも城を出て構わん」
「っ、そしたら帰蝶とまた一緒にいられる?堺に…連れてってくれる?」
「それはできない。お前の顔はもう城の連中に割れている。もし万が一にでも織田の密偵が商館に潜り込んでいれば、予定が狂う事になる」
「帰蝶に…迷惑をかけるって事?」
「迷惑ではない。お前の人生だ。お前が自分で考えて決めろ」
「でも、予定が狂えば私と帰蝶がまた暮らせる日も遠くなるって事だよね?」
「ああ、お前が頑張っているからこそ計画は予定通りに進んでいる」
「私…帰蝶の役に立ってる?」
「お前がいなければこの計画は進まん」
私の頬を帰蝶の冷たくて長い指が滑り、私を宥める。
「ここへ座れ、髪を結ってやる」
「ほんと?嬉しい」
とんとんっと、帰蝶の前を指さされ、私はそこに座った。
帰蝶の指が私の髪を櫛で梳いていく。
時折肌に触れる彼の指先を感じるだけで、私の体は熱を帯びていく。
でも、抱いてはもらえない。
「キスは…してくれる?」
後ろを振り返り、わたしの髪を結う帰蝶を見つめた。
「目をつぶれ」
言われた通りに目をつぶると、帰蝶の唇が重なった。
「口を開けて舌を出せ」
口を開けて舌を少し出すと、帰蝶の舌が重なり深く口づけられる。
私がキスをするのはあなたとだけ。
「私の事…好き?」
「ああ…」
嘘つき……
「紗彩またひと月後にここに来る」
抱きしめてくれる腕も、重ねられる唇も、あなたがくれるものは全てが嘘。
でも、あなたが私を必要としてくれるなら、私はそれだけで幸せなの。
だからお願い。
私を…捨てないで……