第9章 ぬくもり
俺が、奴が遊女屋上がりではと思うもう一つの理由が、このなりで、男をすでに知っていた事だった。
一度や二度抱かれた感じではない。
嫌だと抵抗しつつも抱かれれば悦ぶ体は、遊女として生きて来たからなのだと思った。
かく言う今も紗彩は躊躇いなく俺の夜着を開いて胸に奴の柔らかな唇を押し当てる。
「………っ」
女に組み敷かれるなど過去に許したことなどはないが、紗彩の軽くて折れそうな体が俺の上にいると言うだけで、己のモノに熱が集まり硬くなっていくのが分かる。
冷たい奴の手が熱を持つ俺のモノへ下帯越しに触れた。
(そんな奉仕すらした事があるのか?)
躊躇いなく触れて行く紗彩にゾクリとしつつも、もう一つの可能性が頭を掠めた。
遊女でないならば、好いた男にこのような手ほどきを受けたのか?
いずれにせよ、俺以外が紗彩の体に触れたことがあると言う事実に、感じたことの無いドス黒い感情が湧き上がって来る。
何度か下帯の上から俺のモノを弄った紗彩は、今度はその下帯を外そうと半身を起こした。
だが奴の動きはそこで止まった。
(……もしや、下帯の解き方を知らぬのか?)
平静を装っていた奴の顔は途端に赤くなり、下帯の結び口を探している様だった。
遊女や間者であったのなら、そんなことを知らぬはずはない。
知らぬと言うことは、奴は遊女ではなかったと言うこと。
その事実を突き止め安堵する己がいる。
(ならば貴様は、今はまだ知らぬままでいい)
「紗彩、貴様はそんな事を知らなくていい」
戸惑う奴の手を止めて、その手の指を絡め取った。
「信長様…」
俺を見つめる紗彩の顔は羞恥の色に染まっている。
「無理はするなと言ったはずだ」
手慣れていたわけではない。真っ赤に染まった奴の顔を見れば、必死だったのだという事が伝わり、胸の内がくすぐられた。
「だが散々煽った責任は取ってもらう」
「あっ……!」
奴の体を抱き寄せて褥へと沈めた。
「一度でいい。そうしたら速やかにこの部屋を出ていけ」
(悪いが、少しだけつきあってもらう)
下帯を緩めて奴に煽られはち切れんばかりにふくらんだ欲望を解放させた。