第9章 ぬくもり
「あの…私があの部屋にいるからでしょうか?それなら…」
「そうではない。問題は俺にある」
「信長様に?」
「貴様を見ると抑えがきかん」
「え?」
「今の俺は、ただ貴様を抱くだけでは済まなくなる事が分かっている」
「どう言う…意味ですか?」
“ただ抱く”と”ただ抱くだけじゃない”にはそんなに違いがあるんだろうか?
言葉の意味を図りかねている私に構わず信長様は言葉を続ける。
「あの女と会うといつもこうなる。女というものに苛立ちを感じて、酷く扱うことで気を沈め紛らわせたくなる。今まではそれで良いと思っていたが、貴様の事はそんな風に抱きたくはない」
本当に苦しそうな顔。
あの女とは、母上様の事?
母上様に会うと、発作的なものが起きるってことなんだろうか……?
「っ………、それが…理由で?」
その発作を私に見せない様にするために、ここで何日も一人で寂しくお酒を飲んで紛らわせてたってこと?
「そうだ。分かったのなら行け。今この瞬間も貴様を抱きたい衝動を抑えておる」
秀吉さんは私が変わったと言ったけど、変わったのは私だけじゃない。
「抑えなくて…大丈夫です」
「は?」
「……私は平気です」
信長様だって、出会った頃から考えられないほどにとても変わられた。
「阿保、煽るな。貴様が一番その身に染みておるだろう。そうでなくとももう何日も貴様に触れておらん。酷く貴様を抱くことは確定だ」
熱を滾らせた目を向けながらも、辛そうな息を吐いて部屋から出て行けと私の肩を押す。
「構いません」
長い夜になる事は確定だろう。
でも信長様はもう、出会った頃の様に私を抱いたりはしない事を知っている。
私は自分の帯を解いて着物を下に落とした。