第9章 ぬくもり
(どうして信長様が!?)
もう湯浴みも済まされたのか、夜着をお召しになって一人縁側でお酒を飲まれているみたいだ。
「誰かいるのか?」
私がのぞいている事に気がついた信長様は、こっちに向かって声をかけた。
「あ、あの…私です」
私は襖を大きく開けて信長様に姿を見せた。
「紗彩か ………」
離れていて表情は分からなかったけど、声は明らかに戸惑っているようだった。
「如何した?」
「あ、お酒…お注ぎしましょうか?」
下手な切り返しをしてしまった。
「いや、いい。貴様は部屋に戻って休め」
部屋に入れてもらえると思っていたのに、そっけない言葉が返ってきたから……
「……あ、誰かをお待ちでしたか?」
下手な切り返しの次は、余計な一言まで飛び出してしまった。
だって、わざわざ別の部屋でお休みになっているってことは、ここで別のお相手の方と過ごされるからで……
「あの、突然すみませんでした。失礼します」
(その方と鉢合わせなんてしたくない)
自分がずっと望んでお願いをして来た結果なのに、いざそれを目の当たりにするとモヤモヤするなんて間違ってるって分かってる。
でもすぐには消化できそうになくて、その気持ちを抑えながら慌てて頭を下げて襖を閉めようとすると、
「待てっ!」
縁側からいつの間に移動したのか……、信長様がその襖に手を掛けて止めた。
「っ………」
こんなに近くで信長様を見るのは三日振りで、胸がトクンと甘く疼いた。
「勘違いするな、女と待ち合わせておるわけではない」
「そう…ですか。……ではここで何を?」
ホッと胸を撫で下ろしたくせに、出てくる言葉は可愛げがない。
「………」
そして信長様はその問いには答えず中庭の方に視線をずらした。
「ここ数日は、この部屋で過ごしていた」
「ここで?」
「ああ」
「どうしてですか?」
「………」
信長様はまた黙ってしまう。