第9章 ぬくもり
「とにかく今は謀反平定が急務で信長様はかなりお疲れだ。できる限り信長様の疲れが取れる様に協力してやってくれ」
「はい。私でできる事があるなら…」
この状況を作り出した私に何ができるのかは分からないけど…
「……お前やっぱり、変わったよな」
秀吉さんは嬉しそうに笑って、もう一度私の頭をポンっとした。
「信長様を頼むな」と言われ、私は返答に困ったまま挨拶をして秀吉さんの部屋を出た。
気がつけばもう日も暮れている。
信長様がそろそろお部屋に戻られる頃かもしれない。
一緒の部屋で過ごす事になったものの、まだそんな夜は一度もなかったから、実質、今夜が初めてだ。
緊張しながら用意された夕餉を食べ、そして湯浴みを済ませて寝支度を整えても、信長様は部屋へは戻って来ない。
(忙しいって秀吉さんが言っていたし…)
ある時間までは起きて待っていたけれど襲い来る睡魔には勝てず、私はその夜はそのまま眠ってしまった。
次の日も、信長様は部屋へは来ない。
そして次の日も……
(他の女性の元へ行っているのだろうか?)
ふとそんな考えが頭をよぎる。
「そっか…、そうよね」
私だけしか抱かないなんて言われてその気になっていたけど、秀吉さんに特別だって言われてもっとその気になっていたけど、他の女性の元へ行ってほしいと言い続けていたのは私で、それを信長様がするのはごくごく自然な事だ。
これは、自分で蒔いた種だ。
だから…落ち込むなんて間違ってる。
「はぁ、喉乾いたし、お水飲みに行こう」
喉の渇きを覚えお水を取りに部屋を出ると、自分の部屋から少し離れた部屋の明かりが廊下に漏れていた。
(こんな近くの部屋、誰か使ってたっけ?)
一人で使っていた時から、周りの部屋は客間として空けられていて誰も使ってなかった様に記憶している。
(誰か、お客様でも泊まってるのかな?)
不思議に思いそっとその部屋をのぞいてみると、
(え、信長様っ!?)
そこにいたのは客人ではなくて信長様だった。