第2章 出会い
帰蝶と出会ったのはこの戦国時代より五百年先の未来、私の育った時代の日本だった。
不慮の事故で両親を失い、引き取られた叔母家族にも家を追い出され途方に暮れていた私に声をかけてくれたのが帰蝶だった。
「あなたは……?」
「俺は帰蝶だ。行く所がないのなら、俺の所に来い」
萌黄色の瞳に黒髪の綺麗な顔の男の人…
道ゆく人が皆振り返るほどの美貌を持つ彼に一目で心を奪われた。
いきなり声をかけられついて行くなんて良くないって頭では分かってはいたけど、
“知らない人に声をかけられてもついて行ってはいけません。”と教えてくれた両親はもういない。
その両親の代わりに私を引き取ってくれた叔母家族達からは日々虐待を受けた。
今までの人生が辛かったのだから、騙されていたのだとしても、今までと変わらない。
家族も、家も、お金も、全てを失った私は、帰蝶の差し出した手を掴んだ。
そこからの日々は、想像とは違って夢のようだった。
帰蝶の事は今でも分からないままだけど、多分青年実業家だったのだろうか?彼はとてもお金持ちだった。
タワマンの最上階、ワンフロア全てが帰蝶の家と言うお城の様な部屋で、帰蝶は私に何でも与えてくれた。
美味しい食事に、ふかふかのベッド、可愛いお洋服にアクセサリー。
そして、愛し合う喜びも…
勉強も教えてもらった。
不思議に思ったのは、古文書の解読と書写の練習だったけど、その理由は、ここに来た今は理解できている。
・・・・
「帰蝶、会いたかった」
いつもの誤服屋の奥の部屋、走り寄って抱きつけば、彼の香りに包まれた。
「紗彩、元気そうだな」
私を抱きしめ返して、帰蝶は綺麗な顔に笑みを浮かべた。
「帰蝶はあまり顔色が良くないね。ちゃんと眠れてないの?」
彼の目の下のくまは、今日もはっきりと浮かび上がっている。
「顔色が悪いのは生まれつきだ、心配せずとも必要な睡眠は取れている」
「そう?あまり無理しないでね」
限られた時間の中、彼をなるべくたくさん感じたくて、少しはだけた帰蝶の胸に顔を埋めてキスをする。
久しぶりに感じる彼の胸へのキスが止まらない。
もっと感じたくて、彼を押し倒そうと胸に当てた手に力を入れると、帰蝶はそれをやんわりと阻止した。