第9章 ぬくもり
「信長様と会って話はしたのか?」
「いいえ、甲冑を外すお手伝いをと行ったのですが、母上様が見えられて……」
「なるほどな、お二人のやりとりを見ちまったんだな」
「はい。あの…お二人は本当の親子ではないんですか?」
「まぁそう見えるよな。だが御前様は間違いなく信長様の御生母で、信長様が最初に生まれたお子だ」
「そう…なんですね」
そこから秀吉さんは、二人が先ほどの関係になるまでの話をしてくれ、話を聞く前よりももっと胸が痛くなった。
どの時代も、親族間の争いやいざこざはある。
私の叔母も、私の母のことが大嫌いだったと言って私に辛く当たって来た事をふと思い出してしまった。
「身内の裏切りにあった信長様は、ごく一部の者しか側には置かないし、信じる事はしない。お前はそんな信長様が初めて側に置いた女だ」
「っ…、そうですか……」
「こら、それだけお前が特別だって俺は言ってるんだぞ!もっと嬉しそうな顔をしろ」
返事に困る私を見て秀吉さんは冗談めいた。
「どうして…私なんでしょうか?何も、自慢できるものなんて無いのに……」
気の利いた会話も、楽しませることも何も出来ないのに…
「そう言う所じゃないのか?」
「え?」
「あれ程の寵愛を受けてるのに、いつまでも控え目な所とかじゃないか?」
「そう……なんですか……..?」
(こう言う時は、お礼を言えば良いの?)
こんな事を言われた事がないから、どう返せば良いのか本当に分からない。
「お前の、そう言うところがなんか放っておけないんだろうな」
秀吉さんは再び笑顔を見せて私の頭をポンとした。
私は一人っ子だったけど、兄がいたらこんな感じなんだろうか?
秀吉さんの見せてくれる優しさにふとそんなことを思った。
「信長様の権威が増すほど敵も増える。特に天主が砲撃された事で、各地で信長危うしと言う噂が広まり謀反があちらこちらで起きてる。この機に乗じて領土拡大を企む輩が現れてもおかしくない状況だ」
「そう…なんですね」
それは全部…帰蝶が仕組んだことで、私はそれに協力した者だ。