第9章 ぬくもり
「間違ってはおらん。ここは貴様の部屋であることに変わりはない」
どうすれば良いのかわからず挙動不審気味な私の手を信長様は掴んだ。
「え?」
「この部屋は新しい城が建つまでの仮部屋として、貴様と俺とで使う」
「ええっ!?」
「何をそんなに驚く」
信長様は驚く私に笑いながら、優しく私の腕を引いて膝の上へと乗せた。
「俺の側で俺が直接貴様を守る。もう誰にも貴様を奪わせん」
「っ……」
熱い眼差しを向けられ胸はドキンと跳ねる。
信長様と四六時中一緒にいたのは、帰蝶の商館からここに戻るまでの今回が初めてで、いつもは呼ばれれば夜を共にして、最近は朝食を一緒に食べてその後は別々の生活だったから、急に同棲をすると言われた様な気になって、心は余計に落ち着かなくなった。
「どうした?俺と共に過ごすのは嫌か?」
言葉を発しない私の顔を信長様は覗き込み、私の反応を不安げに見つめる。
「いいえ、でも私と一緒では、信長様にお寛ぎ頂けないのでは?」
「反対だ。貴様が側におらねば気が気ではない」
私の反応を不安げに見ていた目にはいつ間にか熱がこもり、私の背中にはふわふわの絨毯が触れていた。
「………っ」
私の手の指を長い指が絡め取り、体同様に絨毯へと沈められた。
「常に触れられる距離にいて貴様の心音を聞かせよ」
綺麗に整った顔は私の心臓の上に耳を寄せ、そのまま私の上へと覆い被さると目を瞑った。
逞しい体の重みを感じながら私も目を瞑る。
ストレートに表現される信長様の優しさや想いを感じるたびに心は温かい気持ちに包まれるけど、同時に自分のしている事の罪深さに押し潰されそうにもなる。
「紗彩」
掠れた声を出した信長様は私の素肌を求め出す。
明るい時間に、しかも信長様には休んでもらわなくてはいけないと分かっているけど、私が信長様に返せることはこんな事位で…
ううん、違う。
私はそう理由づけることで、信長様と触れ合う事を自分の中で良しとしたいんだ。
帰蝶に協力はしないと思いつつも、彼を完全には心の中から追い出せず、それなのに信長様から与えられる温もりを欲している自分への言い訳を…
帯を解き始める手に抵抗する事なく首元への愛撫を受けていると、
「なんと汚らわしいっ!」
耳をつんざく様な感高い声が部屋の中に響いた。