第9章 ぬくもり
堺から安土へと再び戻った。
帰蝶の商館に戻った時よりも、このお城に戻った今の方がなぜか帰って来た感覚がして、自分でもその心境の変化に驚いた。
「紗彩」
先に馬を降りた信長様は私に手を差し出す。
「ありがとうございます」
その手を取り馬から降ろしてもらうと、そのまま抱きしめられた。
「っ……」
帰路でも信長様はよく私を抱きしめてきて、その度に私の胸はドキドキと高鳴った。
「長旅で疲れたであろう?部屋へ戻って休むが良い」
「は、はい。ありがとうございます。あの、信長様は?」
私はただ乗っているだけだったけど、信長様はずっと私を支えての移動でお疲れのはず…
「俺も少し休む」
「そうですか」
その言葉を聞いてホッと胸を撫で下ろした。
「行くぞ」
「はい」
馬を馬番に預けた信長様は本丸に向かってスタスタと歩き出した。
草履を剥いで廊下を歩く信長様は、天主へ向かうと思っていたのに私の部屋の方へと歩いて行く。
(あっちの方に用事があるのかな?)
不思議に思いながらも、自分の部屋も同じ方向なためその後をついて歩く。
そして私の部屋の前に着くと、普通に襖を開けて入って行った。
(あれ?この部屋に用事?)
不思議に思いながら一緒に部屋へと入ると…
(えっ!)
私がこの安土で使用していたはずの部屋は続きの間を繋げて拡張されており、しかも以前よりも豪華絢爛な部屋へと様変わりしていた。
「天主が砲撃され崩れたからな。暫くはこの部屋を使う」
信長様は新調されたふわふわの絨毯に腰を下ろして脇息にもたれ掛かった。
(そうだ。天主は帰蝶達によって攻撃されたんだった…)
安土城下からも崩れ落ちた天主が見えて胸が苦しくなったのはつい先ほどだ。
砲撃したのは帰蝶達だとしても、そのサイドにいた自分はやはり裏切り者で…、本能寺で信長様の運命を変えてしまっただけでなく、信長様が心血注いで建てたであろう大切な天主をも奪ってしまったのだと、取り返すことのできない事実にまた打ちのめされそうだった。
「失礼しました。信長様がこちらのお部屋をお使いになるとは知らずついて来てしまって…」
ここはもう私の部屋ではなくなったって事だ…
(でもじゃあどこに行けば…?)