第2章 その感情は
戸惑いのままの私に、一虎は容赦なくグイグイと距離を詰めてくるから、どうしたらいいか分からなくなる。
その日の放課後、私は図書室に向かっていた。
「よぉ、今から図書室か?」
「あ、場地。うん、場地も?」
「おぅ。丁度良かった、聞きてぇとこあったんだよ」
場地圭介は隣のクラスで、仲良くなったのも最近だ。図書室でたまたま近くの席に座っていて知り合って、あまりの間違いの多さに笑ったのが始まりだった。
だから、こうやってたまに図書室で、一緒に勉強をしたりする。
「これをここに当てはめるんだよ」
「おぉーっ! なるほど、流石だな。やっぱ、は教え方上手いな」
七三分けにした髪を後ろで結って、四角いメガネを掛けた明らかなガリ勉風の姿で、ニカッと笑う場地の犬歯が見える。
彼は今みたいに真面目な格好をしているけれど、普段は不良側の人間だ。
最近こちらの姿じゃない方で声を掛けられた時は、一瞬誰か分からなかったのを覚えている。
「ちょっとジッとしてろ」
場地に言われるがままジッとしていると、場地の手が私の髪に触れた。
「ゴミ」
糸くずを指で摘んで、ニッと笑う。それにつられて「ありがとう」と私も笑う。
そして、再びノートに視線を戻す。
「そういや、お前一虎と仲いいんだっけか?」
「え、場地、一虎と知り合い?」
聞けば、二人は小学生の頃に出会ってからの友人らしい。
そして、次の場地の言葉に、私は驚いてしまう。
「そういやぁ、そろそろ一虎の誕生日だなぁ」
「……えっ!? そ、そうなのっ!?」
つい場所が図書室だと忘れていて、大きな声が出てしまった。
「知らなかったのかよ。まぁ、わざわざ言わねぇか。あいつの場合は、誕生日にあんまいい思い出ねぇだろうしな」
何故そんな事を言ったのか気にはなったけど、聞いてはいけないような、場地は答えないだろうなと思って、深くは聞かなかった。
私は少し考えて、場地にある提案をする。
「場地、これから暇? ちょっと付き合ってくれない?」
小さな頃から一虎を知っている場地なら、丁度いい。
私は、場地と街へ向かう為、学校を後にした。
何を買うべきか、悩みに悩む。
何せ、私は人に何かをプレゼントした事が、全くないから。