第2章 その感情は
申し訳ない事に、席替えもないのに、私の隣の席はいつの間にか一虎の席に代わっていて、一虎に聞くと「代わってくれた」と言っていたが、一虎に言われたら代わらざるを得ないだろうに。
可哀想な事をしたと、その人に謝ったら快く許してくれた。
そして移動教室から帰って来るのに、私は一人廊下を歩いていると、少し先に目立つ髪色の男が。一虎だ。
彼が動く度にする「リンッ」という音が微妙に届くかという距離。
一人ではなく、女の子と一緒だ。凄く仲がよさそうで、私は咄嗟に物陰に隠れる。
「……いやいや、何で隠れてんのよ……」
何故私が隠れなければならないのか。しかも、隠れる理由もないし。
そっと半分顔だけ出して様子を伺うと、まだ話している一虎と女の子。
小柄でふわふわした、笑顔の可愛い女の子だ。
私とは、正反対。
妙な気分を一掃するように、頭を軽く振る。
「何してんだぁ?」
頭の上から突然声がして、ハッと顔を上げると、立てた髪の前の一部が金色の男子が一人。物凄く背が高くて、かなり見上げないといけない。
「あんた、一虎の……ん? おい、一虎ぁっ!」
「ちょっ……」
呼び止める前に私はその人に手首を掴まれ、引っ張られる。
凄く力が強くて、抵抗なんて出来ずにどんどん引きずられて行く。
こちらに気づいた一虎に、その人は続けた。
「お前の女捕まえたぜー」
人を獲物みたいに言わないで欲しい。しかも、私は一虎の女じゃないし。
「おぉ、半間。サンキュー、探す手間省けたわ」
何で私なんかを探すんだろう。目の前に女の子がいるのに。
「私は、一虎の女じゃありません」
半間と呼ばれた人の手を、私は精一杯の力で振り払った。
驚いた顔をした三人を見る事なく、私は歩き出す。
今度は一虎が私の手首を掴んだ。次から次へと何なんだ、一体何だって言うんだろう。
「何怒ってんの?」
「お前が他の女にうつつ抜かしてっからじゃねぇーの?」
半間君の言葉に、私への言葉でもないのにドキリとしてしまう。一虎を、見れない。
私は、何に腹を立ててるのか。
考える私の頬に指が刺さる。一虎が私の頬を人差し指で突く。
「マジ? ヤキモチ焼いたとか?」
妙にしっくり来て、顔に熱が集まる気がした。