第1章 黒の糸
何だか、こんなに考えている自分がおかしく思えて来た。
「ふっ……あははははっ!」
「んだよっ……笑う事ねぇだろ。俺そんな変な事言ったかよ」
拗ねたようにむくれた一虎に、私は首を振った。
「ごめんっ……違うの。何か、深く考えてる自分が笑えただけだから」
少しは前向きに、彼との関係を考えるのも、悪くないのかもしれない。
私でも、人を好きになっていいんだって、彼なら思わせてくれるかもしれない。
「連絡無視してごめんなさい。今度から、ちゃんと出るね」
「おー、そうしてくれ。寂しいじゃん」
そう言って無邪気に笑う一虎に、また心臓がトクンと跳ねたのは内緒だ。
この人みたいに、私もいつか寂しいとか悲しいとか、そして“好き”とかを、言えるようになれるといいと、密かに思い始めていた。
「それにしても、またサボっちゃった……」
「まぁ、いいじゃん……エロい事、する?」
「しません」
「ちぇ……ダメかぁー」
もしかして私が本気で了承するとでも思っていたかのように、心底残念そうにしている一虎が少し可愛く思え、笑ってしまう。
「んー、やっぱ可愛いな。なぁ、マジでエロい事しねぇ?」
「だからしない」
今度は拗ねてしまった。
校舎裏の裏階段がある場所で、階段ではなく地面に腰を下ろして、不満そうに口を尖らせる一虎の頭を優しく撫でてやる。
「そういうのは、好きな子に言わなきゃ。チャラ男みたいに誰にでも言ってると、本当に好きになった子が現れた時、信じて貰えないんだよ」
「じゃぁ、を好きで、にしか言わなきゃいいって事か」
「……またそういう事を……」
言った一虎の顔が、意外にも真剣で心臓が跳ねる。
これは、今後が心配だ。
「つーか、もう結構好きだけど」
「それはどうも……」
「マジだって」
「はいはい」
サラリと流すように言うと、またむくれてしまう。
最初に会った時の、笑顔で楽しそうに人を殴る危うさは、普段の彼からは見受けられない。
そんな彼は、私といて何が楽しいんだろう。
こんなつまらない女と。
その日から、度々登校して来る一虎と話をしたり、放課後や休日に呼ばれて出かけたり、彼といる時間がどんどん増えて行った。