第1章 黒の糸
一虎が突然私の手を取った。
「絶対誘うから」
まっすぐ見つめられて、心臓が早鐘を打つ。
彼は、何故こんなにも私に関わってくるんだろう。
もっと可愛くてノリがよくて、一虎と楽しく過ごせる子はいくらでもいるはずなのに。
一虎と別れ、自室に戻ってからも、一虎の事が頭から離れなかった。
連絡先は、消すつもりだった。なのに、どうしても指が躊躇ってしまう。
今の私に出来る事は、メッセージを返さない、電話に出ないという事だけだった。
今日もまた連絡を見ないふりしている。
けど、私は一虎の執着心を甘く見ていた。
「なぁ、何で電話出ねぇの?」
授業中に突然現れた一虎が、私の席の隣に立って見下ろす。
怒っているというよりは、どちらかと言えば少し悲しそうだったから、つい言い訳を考えてしまう。
しゃがんで、私の机に頭を置いて見つめられる。
一虎には、教室の人間達が見えていないのか。先生は見て見ぬふりをしているようで、授業は続いていて。
他の生徒達は戸惑ってチラチラこちらを見る者、迷惑そうな者と様々だ。
呆気に取られていた私は、とりあえず一虎と共に教室を出る事にした。
どうして放っておいてくれないのか。
そんなに執着するような出来事があったわけでも、そこまでの人間でもないのに。
「なー、何か怒ってんの?」
「ねぇ、何で私なの?」
「……何その質問。んー、分かんねぇけど、俺と同じ感じがしたから? つか、きっかけなんて、関係なくね?」
頭を掻きながら、私が変な事を言ったみたいに返す。
一虎が少し私との距離を少し縮めるみたいに、一歩前に歩み出た。
「惹かれんのに、意味なんていらねぇだろ」
惹かれる。今一虎は、惹かれると言った。
私の何に惹かれたの。私の何を知ってるの。同じって何。
私は頬に触れた一虎の手を払った。
「私は、誰かに求められるような人間じゃないし、もしそういう事があるなら、それはただの欲の対象なだけ」
そう、勘違いだ。
「まぁ、俺も男だし、お前相手に全然欲がないとは言わねぇよ、エロい事も考えるし、色々シてぇし?」
そう正直に言われると、恥ずかしい。
面と向かって言われる言葉としては、確かにおかしいのに、妙な説得力がある。