第5章 離さない、離れない
街中探し回るけど、彼の姿は見つからない。
そして、ふと考える。
「……あ、もしかして……」
誰も知らない、二人だけの場所が頭に浮かぶ。
いるとは限らないし、確信はないけど、ただ、何故か漠然とした自信があった。
そこに必ず一虎がいる。
私はまた走る。
街を少し外れて、人通りがだいぶ少なくなった場所から、入り組んだ場所に入る。
エレベーターなんてないから、そこは階段を使う。
少しづつ上に上がる度に、心臓を打つ速さが増していく。
今は使われていないであろうそこは、静かで薄暗くて、外はまだ明るいのに少し怖い。
古くなって少し固い扉を、体を使って押す。
小さくキィーッと鳴って、扉が開く。
ずっと会いたくて、探していた背中が見える。
「……何で来ちゃうかなぁ……」
こちらを振り向いて苦笑する顔が、愛おしくてたまらない。
「自分勝手に離れようとするな、バカ一虎」
一歩一歩近づいて行く。
一虎はこちらを向いたけど、登った段差から降りてくる気配はない。
落ちたりしないだろうかと、ヒヤヒヤしながらも、一虎から目を離す事はしない。
「一虎がちゃんと捕まえててくれないから、半間君に口説かれちゃったじゃない」
「っ……半間かぁ……半間相手は、ちょっと困るなぁ……」
動揺しながらも、頭を掻いて笑う一虎に少し近づく足を早めた。
「俺に、はもったいな過ぎるよ。俺みたいな勝手で何するか分かんないような奴は、いない方が……」
駄目だ。腹が立って来た。
「それ、本気で言ってんの? だったら何も言わず、メッセージなんて残さず消えればよかったじゃん。一虎の気持ちはその程度だったの?」
「違うっ! そうじゃ……なくて」
「薬盛られて、監禁されたって、私は一虎を嫌いになんてならないし、ずっとあのままだったとしても、私はずっと一虎を好きでいれるよ」
大きな目を更に開いて、話を聞いている一虎に、私は続ける。
「こんなに簡単に手放すなら、最初から関わって欲しくなかった。私の心に入って来て欲しくなかったっ……放っておいてくれたら……こんなに辛くならなかったのにっ! 一虎のバカっ! あほっ! 一虎なんかっ……一虎なんか嫌っ……」
思ってもない“嫌い”という言葉。