第5章 離さない、離れない
〔一虎side 2〕
鎖で繋いで自由を奪って、薬を飲ませて抱いて。
俺は、こんな事がしたかったわけじゃないのに。
ただ、二人で笑ってたかっただけのはずなのに。
俺は何処で間違ったんだろう。
「俺には難しい事も、好きだなんだって話は分かんねぇけど、お前等には幸せになって欲しいんだよ」
昔から、そうやって人の為に動いて、人の事を心配して、人の幸せを願う奴だ。
場地には助けられっぱなしだ。
「俺、何やってんだろーな……」
いくら好きだと、愛してると言っても、自分を苦しめるような男を、ずっと好きでいてくれるなんて、好きでいられる奴なんていないだろう。
手離したくないのに、こんな俺がを幸せに出来るとも思えなくて。
こんな気持ちになったのは、初めてかもしれない。
好きだけど、いや、好きだから手を離す。
には、ちゃんと幸せになって笑ってて欲しいから。
俺みたいな自分勝手な酷い男じゃなくて、もっと、それこそ場地みたいな奴と。
涙を流して寂しそうに笑うを抱いた後、俺は眠るを残して部屋を出て半間に連絡する。
俺はの前から消えた方がいい。
そう思うけど、やっぱりなかなか踏み切れなくて、メッセージなんて送ってしまう。
何処までも愚かな自分に笑えてくる。
もしかしたら、俺はに期待しているのかもしれない。
俺を追いかけて来て、好きだと、愛してると言って抱きしめて欲しい。
ずっと傍にいて欲しい。
そんな淡い期待を。
そんなの、あるわけないのに。
「さすがに、ドン引きだよな……」
自分がした事に自傷気味に笑って、空を仰ぐ。
あるビルの屋上。
フェンスはないから、足を滑らせたらあっという間にあの世行きだ。
ギリギリの部分に立って、柔らかく吹く風に目を閉じる。
「……もうお前に会いたくなってるよ、俺」
一生忘れられないだろうなぁと、つくづくへの想いを実感する。
街を出て、から離れない限り、簡単に揺らいでしまうだろう、俺の脆い決心。
のいない日常に、俺は戻れるのだろうか。