第5章 離さない、離れない
言えないクセに、口にしようとするけど、その言葉は出せなくて。
「好きぃ……一虎ぁ……何で離れてくの……やだぁっ……ずっと傍にいてよっ……ずっと一緒って、言ったのにっ……」
「っ……ごめっ……」
一虎の香りがふわりと私を包み込んで、体が温かくなる。
抱きしめる力は凄く強くて、痛い
「嘘つきぃっ……」
「ごめんっ……ごめんなっ……」
流れる涙を止める事もせず、私は一虎の背に手を回した。
一虎も泣いていて、二人で泣きながらキスをした。
ビルの屋上で、壁を背にして座る一虎の脚の間に座って、一虎に凭れ掛かる。
お互い無言だけど、心地よくて。
一虎は私の指に指を絡めて握り、もう片方の手で私の髪を少し取って、指に搦めて遊んでいる。
空はもう暗くなっている。
「そろそろ帰んねぇとなぁ……」
言うけど、離す気配はない。
「一虎、エッチしよーか」
「へ? っ……えぇっ!?」
物凄い驚きの声を上げた一虎を、首だけで振り向く。
「そんな驚く事?」
「いや、その、まさかそんな事言われるとは思ってなくて……」
「喧嘩したカップルは、仲直りエッチするんだって。ネットに書いてた」
この間たまたま見つけた記事に、そんな感じの事が書いてあったのを思い出す。
「何? 嫌なの?」
「そんなまさかっ! 俺、相手がだったら、永遠と抱き続けられる自信あるっ!」
「ふふっ、死んじゃうよ」
笑う私に、一虎が緊張した顔をする。
一虎の方を向いて、両頬を手で包んでゆっくり近づく。
「一虎、唇震えてる」
「ん……何か、めちゃくちゃ緊張してます……」
優しく触れて、震える一虎の唇を唇で挟んだ。
一虎の舌が口内に入って、絡め取られていく。
「んっ……ふっ、はっ……」
「ねぇ……一虎の部屋、行ってみたい……ダメ?」
そういえば家の前には行った事はあるけど、入った事はなかったなとふと考える。
一虎は一瞬考えて、すぐに「いいよ」と笑って答えた。
手を繋いで人気のない道をゆっくり歩く。
一度だけ行った一虎の家が見えて来て、真っ暗な家には人がいないようだ。
「誰もいないの?」
「うん。親はこの時間、ほとんど家にいる事はないな。俺も外にいる事多いし」