第2章 その感情は
暗くなった部屋に、ロウソクの灯りだけが輝いている。
一虎は、固まっている。
テーブルにケーキを置いて、ベタだけどハッピーバースデーの歌を歌った。
その間も、一虎はただケーキを見つめて固まっていた。
「ほら、吹き消して」
私が言うと、おずおずと一虎が火を吹き消した。
パチパチと私の手の叩く音だけがして、その後に電気を点ける。
ベッド脇にあるプレゼントを手にして、一虎に差し出した。
「一虎の好きな物が分からないから、何がいいか悩んだんだ。この間場地と一緒にいたのは、これを選ぶのを手伝ってもらってたの。そんなにいい物じゃないけど」
私の顔と紙袋を交互に見た後、小さな声で「開けていい?」と呟いた一虎に「もちろん」と返事を返す。
中身を見た一虎が、柔らかい笑みを浮かべる。その表情にドキドキしてしまう。
そして、一虎の目から涙が流れた。
「一虎っ、ど、どうしたのっ!?」
「悪ぃ……っ、ちゃんと、祝ってもらうのなんて……ほとんどっ、なくて……」
喜んで貰えた事に安堵して、私は自然と笑顔になる。
「だから、誰よりも一番におめでとうって言って、お祝いしたかったんだ」
少し一虎との距離を縮める私の心臓は、張り裂けそうに激しく高鳴っていた。
「誕生日おめでとう、一虎」
私は、一虎の頬に軽く触れるだけのキスをした。
私の気持ちにスルリと入り込んで、いつの間にか心をいっぱいにして、何かを求める事を諦めた私が、唯一欲しいと思えた相手。
私を、私だけを見て欲しいと思った相手だ。
「ありがとう、。大事にする」
涙に濡れながら微笑む一虎は綺麗で、目元のホクロも手伝って、その姿は妖艶にも見えた。
心臓はずっと早鐘を打っていて、それを誤魔化すかのように、一虎から目を逸らして口を開いた。
「け、ケーキ、食べよっ! 早起きして作ったんだ。ご飯は何が好きか分からなかったから」
「えっ!? これ、手作りなんっ!? 売ってるヤツかと思った」
「お菓子作りは好きだから。本当はご飯もあればよかったんだけど……」
「手料理……いいな……」
「今度好きなモノ作ってあげるね」
だから、まだ一緒にいれる時間を増やせたらいいと願う。
ケーキを切り分け、口に入れる。