第2章 その感情は
そこへ、高く可愛らしい声で一虎を呼ぶ声が聞こえた。
あの時の、私を睨んだあの子だ。
彼女が手に何か持っているのを見て、嫌な予感がした。
呼ばれた一虎は「ちょっと待ってて」と私の頭にポンと手を置いて、立ち上がる。
嫌だ。
他の子の所になんて、行かないで。
誕生日の“おめでとう”を最初に言うのは、祝うのは私がいい。
私は無意識に、一虎の制服の裾を握っていた。
「ん? ? どーし……」
「行っちゃ……やだっ……」
一虎を見上げて呟く。一虎は目を見開いて驚いた顔をしている。
私のこの行動は、そんなに意外だったのだろうか。
「っ!?」
私のカバンを持って、そのまま私の手を取った一虎は、呼んでいた女の子に「悪い、また今度な」と言って、そのまま学校を出た。
私はその間もずっと戸惑ったままだった。
意味が分からず、ただ手を引かれて歩く私は状況が飲み込めずにいた。
学校から少し歩いた先にある公園で、ベンチに座らされた私の頬に、一虎の手が当てられて目元を指がなぞった。
「泣く程、俺が他の子のとこ行くの嫌なの?」
嬉しそうな顔でそう言った一虎の顔は、やっぱりニヤついていた。
少し落ち着いた私は、恥ずかしさに熱くなった顔を逸らして口を開く。
「……今日は……嫌……」
「……ん? 今日は?」
夜になったらと思ったけど、せっかくだからと私は立ち上がる。
「一虎、一緒に来て」
ありがたい事に明日は学校が休みだから、ゆっくりお祝い出来そうだと、改めてワクワクが戻って来る。
今度は私が一虎の手を引いて歩き出した。
手を繋いでいた私の指に一虎の指が絡まるのを、私は抵抗する事なく受け入れる。
恋人が繋ぐみたいに手を繋いで、私の住む寮に到着した。
「へぇ、部屋に招いてくれんの?」
「変な事考えないで」
ニヤニヤしながら言う一虎に、私は注意して部屋に招き入れた。
「女子にしては、殺風景だな」
「置く物なんてほとんどないから。とりあえずテーブルの前に座って」
座るよう促し、一虎用にコーヒーと自分用の紅茶を用意してテーブルに運んだ。
そして、冷蔵庫からケーキを取り出してロウソクをさして火を点ける。
その足で電気を消しに戻る。