第2章 その感情は
場地は小さく「何かあったら連絡しろ」と言って、私の頭に軽く手を置いて去って行った。
「いつから見てたの?」
「……図書室……。つか、何で場地と二人で仲良さそうにしてんだよ……いつから、仲良いわけ?」
拗ねたような落ち込んだみたいな顔で、こちらの様子を窺う一虎に、先程までの危うさはない。
私は簡単に場地との話をすると、一虎に抱きしめられる。
「何で……俺のじゃねぇんだよ……」
「一虎……」
そんな悲しそうな声で言われたら、流されてしまいそうになる。
「場地とは友達だし、今回場地は何も悪くないんだから、次会ったらちゃんと謝らなきゃダメだよ」
場地には色々アドバイスを貰っていたくらいなんだから、感謝しないといけない。
言って背中を撫でると、小さく「分かった」と一虎が呟く。
そこから何故かずっと手を離してくれない一虎と、手を繋いで家路に着いた。
少しの間、無言で手もやっぱり離しては貰えず、私はただ待つ事になる。
「離れたくねぇ」
「無茶言わないで」
「仕方ねぇじゃん。すぐ会いたくなるんだし」
「学校来たら毎日会えるよ」
苦笑して言うと、一虎は間髪入れずに「分かった」と言った。
その翌日から、一虎は毎日学校へ来るようになった。
真面目に授業を受けるわけでもなく、ただ座って私を眺めている。
最初は落ち着かなかったものの、人は何事にも慣れるもので、どんどん気にならなくなっていった。
そして迎えた、一虎の誕生日。
私は早起きして、一虎の為にケーキを手作りする事にした。
料理を作るのも嫌いじゃないけど、お菓子を作るのは結構好きだ。
ワクワクしている自分に、少し気恥ずかしさを覚えながら、出来上がったケーキを冷蔵庫に入れて、学校へ向かった。
誕生日にいい思い出がないのは私も同じだから、一虎には少しでもいい思い出を残して欲しくて。
こんな事を誰かに思ったのも一虎が初めてで、私は一虎に惹かれて来ているのは事実だ。
それが、どんな経緯であったとしても、この感情は私だけのものだ。
明らかに浮かれている私は、その日一日ずっと一虎の事ばかり考えていた気がする。
「なぁ、今日妙にご機嫌じゃね? 何かあんの?」
ドキリとして、一息吐いて一虎を見た。