第1章 束ねて 【不死川実弥】
何度も、何度も。
互いに優しく唇を食むような、心地の良いキス。
今日は火曜日。
明日もお互い忙しい。
とはいえ週末のお泊まりとデートは決定している。
例え今夜一緒に過ごせなかったとしても、誕生日のお祝いは週末でも十分だし、プレゼントだってそのときに渡せばいい。
それでも。
( 少しでも、一緒に過ごせたらいいなって、思ってたから··· )
時間を作ってもらえることが、たまらなく嬉しい。
一緒にいたいねって、互いに想い合えるのが嬉しい。
「そうだ、今日は実弥くんの仕事は何時頃に終わりそう? その時間に合わせてマンションまで行くよ」
「······」
「?」
アンティーク調のドアハンドルに手をかけたまま振り向き、実弥はしばしなにも答えず寧々の顔をじっと見つめた。
その後、小首を傾げる寧々から顔を背けると、フイと背中を向けてしまう。
「······ポッケん中、見てみろォ」
引き戸を滑らせ、一歩。
外へ踏み出してから立ち止まり、そう呟くように言い残した実弥。
え···? と呆けている間に引き戸がカタカタと音をたて、二人の間に優しくてあたたかな隔たりを作った。
「···ポッケの中···?」
実弥の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、寧々もまた独りごちて、スカートのサイドポケットに手を入れる。
「!」
指先に触れたのは、てのひらに収まる平たくて硬い感触と、よく知っている形。
( ···もしかして )
ドキドキしながらゆっくりとそれを引き上げる。
包み込んで握りしめたてのひらを、胸もと辺りで、そうっと開いた。
───スペアキー。
見たことがある形状のそれは、実弥の家のものだった。
「っ、いつの間に」
この鍵は、実弥が普段使用しているオリジナルキー、ではない。
実弥のマンションの部屋の鍵にはオリジナルとスペアに色違いの合皮のタグが付いているのだ。
オリジナルはモスグリーン、スペアにはマスタードの色がそれぞれの目印になっている。
今、このてのひらの中の鍵についているタグの色は、秋空を舞うイチョウのようなマスタード。