第1章 束ねて 【不死川実弥】
実弥の家族の不死川家は、同じマンションの別の階に住んでいる。
教師になると同時に独り暮らしを始めた実弥。キメツ学園から近い賃貸マンションも検討していたが、もともと家族仲の良い不死川家。
まだ幼い弟や妹が寂しがったため、偶然空き家になった下の階に契約を決めたのだと言う。
「祝われるのは当然ありがてェことなんだが、こう···逆になんか返してぇ気持ちっつぅモンが年々増してくんだよなァ」
「···実弥くんは、優しいね」
「別に···そういうんじゃねェよ。お前や家族が嬉しそうにしてんのを見んのが俺の癒しに繋がってるっつぅだけだ」
「ふふ、癒し」
「悪ィか」
「ううん」
寧々は抑えがたい気持ちになり、実弥の胸もとに控えめに身を寄せた。
「実弥くんのそういうところ、大好き」
「···ここは学校です、じゃなかったのかァ?」
「でも、ちょっとだけ」
「······今日、ウチ来んだろ?」
するりと頭を撫でる手が、来てほしいって甘えている。実弥は時々、そんな触れかたをする。
実弥は照れ屋で、甘やかな言葉を口にすることが少しだけ苦手なようだけど、そのぶん何気ない所作や眼差しに本音を含んで接してくれる。
そんな彼の不器用さが、愛おしくてたまらない。
「もちろんそのつもりだよ」
寧々はつま先立ちをして、実弥の首筋にキスをした。
「おいコラ···んな風にすり寄って来られっと、またうっかり手ェ出したくなっちまうだろうがァ」
「だって、実弥くんに触りたくなっちゃったんだもん。でももうすぐ予鈴が鳴っちゃうから、わたしもこれで我慢する」
きゅ、と実弥に抱きつくと、頭の上から「···フッ」と吐息の抜ける音がした。
「? 笑ってる?」
「···可愛いヤツだなァと、思ってよ」
「実弥くんは、素敵なひと」
「んな煽たりしねぇでも、ちゃんとケーキは買って帰ってやるよォ」
「もう、ケーキのためじゃないってわかってるくせ···に」
口を尖らせて見上げた瞬間、寧々の眼前にふわりとした前髪がおち、唇と唇が重なった。