第1章 束ねて 【不死川実弥】
それにしてもいったいどのタイミングで仕込まれたのか。確かに今日履いているスカートには少し大きめのポケットがついているけれど。
去り際に言われなければ、ずっと気づかなかったかもしれない。
実弥ははじめからスペアキーを渡すつもりでいたのだろうか···と考える。
スペアキーはあくまでも予備の鍵。持ち歩くものではない。寧々も自分の家のスペアキーは失くさないようにクローゼットの中の小物入れにしまってあるくらいだ。
もしかして今日、これを渡すために寝に来たのかな。
さすがにそれは都合よく解釈しすぎかな。
( 実弥くん、本当に眠そうだったし、ぐっすり寝てたし )
考えたところで想像でしかない。
本当のことは、実弥しか知らない。
ただ、寧々に預けてもいいのだと、保管場所からスペアキーを取り出す実弥の姿を想像しただけで胸が震えた。
好きや愛しているの言葉ももちろんとても嬉しいけれど、
【信頼している】
それを形として示されたような気がして目頭が熱くなる。
「よし、午後も頑張ろう···!」
すん、と鼻をすすり上げ、気合いを入れてのびをする。
通勤バッグから自分のキーケースを取り出して、宝物を閉じ込めるように、大切にそれを収めた。
今日のために用意してある実弥へのプレゼントが覗く。
ショップ袋の持ち手に結ばれた、シルバーのリボン。
プレゼントの中身は本革の手帳カバーだ。
( 喜んで、くれるといいな )
お祝いできる夜を待ち遠しく思いながら、寧々はキーケースをバッグの中にそっとしまった。
* F i n *