第7章 ガラス玉にキスをするのは僕じゃなくても【赤葦京治】
空になったラムネの瓶を水平線へ向けて翳した。
ガラス玉と重なる空際。
屈折した世界もそれほど悪くはないものだ。
出逢ってから、これまでずっと。
寧々さんに、恋をしていた。
それを誰に打ち明けることはなくても。
「赤葦ーっ、ちょっと海に入ってかない?」
「ええ?」
戻ってきた途端に寧々さんがまた奔放なことを言っている。先ほどの涙からは一転。子供のように無邪気な笑顔で。
「俺はいいです」
「ダメ、先輩命令」
「んな無茶苦茶な」
「せっかく来たんだしはしゃごうよ。青春だよ?」
「はしゃぐとか俺そんなキャラじゃないんで」
結局は押し負かされた形となって波打ち際まで行くことになった。
腕を引く力はそれほど強くはないが抗えない。面倒だ……と思いながら彼女と一緒に渋々と堤防を下りてゆく。
青々と並んだ二つの瓶が、ふと視界の隅で街にさらさらと熔けていくような気がした。
酷熱に弾かれて揺れる光。
彼女の隣にいられた時間をもう一度記憶に刻んで瞳を綴じた。
瓶の中のガラス玉と共に。
* F i n *