第6章 *・゚・レインシューズはいらない*・゚*【岩泉一】
「言い訳だろうが、俺も付き合ったりすんのは初めてだしよ、お前の気持ちにちゃんと気づいてやれなくて」
「違う···!」
「は?」
「違う、違うの。一が悪いんじゃないの」
一と付き合うまで知らなかったの。
自分にこんな泥々しい感情があったこと。
すべてを打ち明け終えた頃にはローファーに雨水が染み込んでいた。
一のスラックスの裾まで濡れてしまったことを申し訳なく思っていると、ちょっと待て、と低く錆びついたような声がした。
ああ、一が怒るのも当然だ。こんな自分勝手な言い訳されたら、誰でも気分は良くないもん。
「俺はそんなことでフラれたのか?」
「──へ?」
「いや、でも結果的にお前を苦しめてたんだから軽いってわけでもねぇか」
「······一?」
「つうかよ、なんでもっと早く言わねぇんだよ」
一が不機嫌そうに唇をへの字にする。
それは憤っているというよりも、どちらかと言えば拗ねているものに近い。
「こんなの、自分でも嫌だったんだもん······。一には、知られたくなかった」
「······あのなぁ」
まぶたを伏せて、一がはあ、と息を吐き出す。眉間に刻まれたしわの深さに、私は軽蔑される覚悟を抱いた。
「俺は、一度好きんなった女を簡単に嫌いになれるほど切り替え早くねぇよ」
「っ、ひゃ」
グッ、と体ごと引き寄せられる。
頬に付く一のシャツと、視界を覆うえんじ色のネクタイ。踏み込んだ右足が、パシャリと地面の水溜まりを踏んだ。
突然の状況に、すぐに理解が追いつかなかった。
「及川のクソが色々言いやがるから、すっげー悩んで、けどわかんなくて」
「お、及川くんが、なんて······?」
「思い出すだけで腹立つから言わねぇ」
「···ふ、相変わらずだね」
「笑い事じゃねぇ」