第5章 *・゚・つかんだ飛沫は七色の*・゚*【二口堅治】
「二口、くっ、待って」
「……え~」
「ここ、学校……っ」
「あ~、バレたらヤバイっすね~」
「そんなヘラヘラと……っ」
キスをしたあと刺激なく押し倒された机の上で、首筋から唇を離し二口くんがヘラリと笑う。けれど離れようとはしてくれなくて、微妙に異なる色合いのふたつのTシャツは仲睦まじく重なったまま。触れ合うお腹が温かい。
モテるんだろうなぁ、と思う。綺麗な顔、してるもの。
女生徒の少ない学校だけど、学年関係なく女の子と一緒にいるところはよく目にしていた。
雰囲気は明朗で、親しみやすく物怖じもしない性格。それ故に少し問題児扱いされることもあるようだけど、こうと決めたことには意欲的に取り組める、とても素敵な男の子。
私よりももっとお似合いな子は、絶対にいるはず。
そんな想いが頭をもたげた直後、うつむいた彼の表情に瞳が冴えた。
息を飲む。
「いや、頑張ってねぇと、ほんとはすっげぇ緊張してんの、絶対バレる、つか、自分で言うとか。あー、くそ。テンパってるわ、マジで」
「────…」
「っ、あんま見んなよ……っ」
「ご、こめん、その、かわいいなぁって」
「だぁ!」
「ひぇ」
瞼の上に降りてきたのは、少し汗ばんだ大きな手。途端に顔が熱くなる。
彼の世界に映ることは望まないと決めていた。
密かな場所で見つめ続けるだけの日々だった。
それなのに、いま目の前にいる彼をこうして感じられる幸せを知ってしまった。
「っ、ん」
目隠しされたまま唇が濡れる。
一度目のキスよりもずっと長い、探し物をするようなキス。
指の隙間から入り込む天井の光が時折まぶたを射す他は、テンポを上げた左胸の鼓動と彼の吐息に自分が何者であるのかも忘れた。
教諭であるとか、大人であるとか、アイデンティティは消失している。
理由も意義も証明も、いまは何も必要ない二人の世界。
それはとてもふわふわで、甘くて柔くてねっとりとした、口の中でマシュマロを溶かしている時のような。