第1章 束ねて 【不死川実弥】
加えてこの学園に至っては、教師も同等にのびのびしている。
教職はストレスも並でないと言われる仕事のひとつだ。だがキメ学の教員たちはメンタルもフィジカルもとにかく強い。
この学園の教師陣と接していると、仕事にどう向き合うのかの信念が各々で確立されているなと感じる。そのため寧々も日々良い刺激を受けている。
さきほど寧々は"タフネスな方たちばかりだ"と口にしたが、中でも実弥は最もそれに当てはまる人物だと言っていい。
「実弥くんがここから出ていくのを見られたら、別の意味で大騒ぎになるんじゃない?」
「そりゃどういう意味だぁ」
「まさかあの"しな先"がカウンセリングに頼るほどの悩みを抱えているのか!? って学園中がざわつくと思」
「ほォ···言いてぇこたァそれだけかァ···?」
「嘘ですごめんなさい···実弥くんにだって眠れなくなるくらい落ち込んじゃうときもあるんだよねきっと···実は繊細って誰かから聞いたような聞かないような···」
「顔が笑ってんだよォ······!」
「ふ、ふふっ」
寧々の頬を片手でむぎゅうと鷲掴み、実弥は黒い笑みを浮かべる。
それでも頬が綻んでしまうのは、小突くときも、鷲掴みをするときも、痛くないように力を緩めてくれている実弥の優しさが伝わるから。
「あーあァ、いいのかねェ。今日はお前が食いてぇつってたパステリー粂野の新作ケーキ買って帰ってやろうと思ってたのによォ、やっぱやめちまおうかなァ」
「えっ」
寧々は驚いて目を丸くした。
「ケーキって、なんで今日?」
「···いらねぇなら買わねェ」
「そうじゃなくて、だって今日は実弥くんの誕生日だよ? わたしのためのケーキじゃなくて、実弥くんの食べたいもの買っていいんだよ? パステリー粂野はおはぎも売ってるし、実弥くんあそこのおはぎ好きでしょ?」
「毎年誕生日は家族が作るそれを食うのが定番だからなァ。昨年寧々も一緒に食っただろう」
「そういえばそうだったね。上の階に住むみんなが実弥くんのところまで届けに来てくれて。あのおはぎ、すっごく美味しかったなあ」