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ゆりかごに甘噛み (R18)

第5章 *・゚・つかんだ飛沫は七色の*・゚*【二口堅治】



「なんで俺のTシャツずっと着てんの?」

「これは、だって、あなたが」

「自分の服なんてとっくに乾いてんだろ」

「ちが…っ、別に深い意味は」

「そのまま帰るつもりだったんじゃないの?」

「っ、今から着替えます……っ」



 出ていって、と叫んでしまいそうだった。

 もっと平静を装えると思っていたのに、私はまた明らかに動揺している。

 真っ先に登り詰めてしまった驚喜を隠蔽しなければ。そうささやく理性が困惑と恐怖を道連れに内側で絡み合い騒ぐ。

 彼は生徒。
 私は教諭。

 せめて今日家に帰るまで、彼の所有物を身体に纏っていたかった。そう望んだ罰なのだろうか。



「そのままでいいよ、着ててよ。俺は寧々ちゃんだからそれ」

「勘違いしないで……っ」



 優しく諭すこともできないなんて最低だ。彼に好意を寄せてしまった気持ち以前に、私は大人として、人として、教諭として未熟なのだと思い知る。

 二口くんの胸元に向かって伸ばした腕に力を込めた。文字通り、こうして彼を突き放すことしかできない。



「……勘違いなのかよ」



 眼前の、真っ黒なTシャツの袖から垂れ落ちた拳が、きつく握られたのを見た。



「じゃあ、なんで、いつも同じ時間にそこ、いんだよ」



 耳を疑う。

 まさか、そんな。


 ──気付かれていたのだ。


 放課後の同じ時間、ここから見える渡り廊下から体育館に向かう彼を見ていたこと。



「なんで廊下ですれ違う時、いつも目ぇ逸らすんだよ」



 自然にできていると思っていたのに。



「マネージャーと一緒のとこ見て傷付いた顔してたの誰だよ」



 知られてしまっていた。

 滑津さんと親しくしているのを目にして、胸が苦しくなったことまで。



「んなの、全然隠しきれてねぇじゃん」



 深く関わることなく日々緩やかに、だなんて思いながら、浅はかもいいところだ。



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