第4章 乙女は大志を抱けない【藤井昭広】
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『へ~え、そんなことがあったんだ』
「絶対お兄さんにあたしが藤井くんのこと好きってバレたよね···?」
『まあ藤井くん本人にバレたわけじゃないんだし』
「明日から藤井くんとどんな顔して会ったらいいかわかんないよ」
『深刻に考えすぎだよ。だって藤井くんだよ? けっこう、ていうかだいぶ? 鈍いじゃんあのひと』
スマホ越しから友達の蘭子ちゃんにそう言われ、確かに藤井くんって鈍いことろあるかもな···と思い直す。
隣のクラスの子が藤井くんを好きだという噂が流れたときも、本人の口から直接言われたわけじゃねぇじゃんと、藤井くんは本気にしていなかった。
『本当は誰が藤井くんの家に届けに行くかのじゃんけん勝負で勝ったからなんて言えないよね』
「勝ち取ったときはすっごく嬉しかったのに、いざ行ったら、もう、自分が不甲斐なさすぎてぇあああああぁぁ」
『突然奇声あげんのやめてw』
「だって、もうずっとドキドキが止まらないのあたし! 生物って一生に鳴る心拍数がある程度決まってるっていうでしょ! このままこの速さで鳴り続けたら早死にしちゃう!」
『それって人間には当てはまらないって説じゃなかったっけ? まあよく知らんけど』
「さっきから何度も呼吸困難に陥りかけてるし!」
『安心してちゃんと呼吸できてるから。ていうかそんなんで来週の運動会の練習大丈夫そ? フォークダンス』
「──忘れてた!!」
『好きな人と手繋げる機会なんてなかなかないもんね~。あたしは榎木くんと踊るの楽しみだな』
「······無理」
『は?』
「やだ、まってむり、手繋ぐとか、ほんと無理」
『昨日まであんなに楽しみにしてのに?』
「昨日は昨日、今日は今日だよ! 藤井くんと対面して手繋ぐとか、あたし爆発して死んじゃうよ···!」
『大丈夫だよ寧々は長生きするよ』
「あたしもう学校行かない」
『え、なに言ってんの?』
「ムリだよ行けない。だって、だって···っ、っ」
『落ち着きなよ。ほら、吸って~吐いて~』