第4章 乙女は大志を抱けない【藤井昭広】
そうはいっても無性に苛立ってしまったり、不満が頭のなかをぐるぐるしては全部を投げ出したくなるときもある。
今日だって、朝から熱でしんどい俺を置いてみんな出かけて行っちまうし、一加とマー坊はまだ色々と区別がつかない年齢だからお構い無しに騒いで喚くし。
こんなときくらい気遣ってほしいもんだとげんなりしていた。案の定夕方になっても熱はちっとも下がらない。
篠山が来たのはそんなときだった。
とうとう倒れた俺を力いっぱいで支えて歩く篠山はなんだかとても頼もしくて、不思議な安心感と居心地の良さを感じた。鼻先が、どこからともなく香った甘い匂いを記憶している。
( 好きな子、ねえ )
もう一度心のなかで呟いて、明日は学校に行けるだろうかと考える。
篠山に会ったら頭の具合を一番に聞いてやろう。
そう思って俺はもう一度目を閉じた。