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ゆりかごに甘噛み (R18)

第4章 乙女は大志を抱けない【藤井昭広】



 バタバタと廊下を走ってくる音が聞こえて我に返った。
 締め切れていなかった子供部屋の扉が全開し、四~五歳くらいの女の子と二~三歳くらいの男の子が低い場所からひょいと顔を覗かせた。



「ありゃ···?」

「はら···?」

「あ···こ、こんにちは。お邪魔、してます」



 ギギギ···と、首だけをぎこちなく回して精一杯の笑顔を作る。



 ( もしかしてこの子たち、藤井くんの妹さんと弟さん···? )



「と、と、友也兄ちゃあああん! 大変でしゅー!」

「昭広兄ちゃんのお部屋にー!」

「あ···っ」

「あー···うるせー奴らが···帰ってきやがった···」



 部屋から飛び出していった二人に唖然としていると、藤井くんはそう呟いて背中からベッドに倒れた。









          *




「なんかごめんな? 昭広が迷惑かけたみたいで」

「いえそんな! むしろ、あたしのせいで逆に藤井くんゆっくり休めなかったかも···」

「あー、大丈夫大丈夫。うちは兄弟多いから、誰が寝込んでもいつもこんな感じよ」

「藤井くん、落ち着いたみたいでよかったです」



 帰り際、藤井くんのお兄さんと妹の一加ちゃん、弟のマー坊くんに見送られ、あたしは玄関先で三人にペコリと頭を下げた。

 藤井くんは、あのあとすぐに薬を飲み、今は寝ている。



「ねえねえ、寧々ちゃんは昭広兄ちゃんのコイビトなの?」

「ええ!? ち、ちが、そんなんじゃないよ一加ちゃん!」

「でも昭広兄ちゃんと見つめ合ってたでしゅ」

「ああああれは、あれはあたしが頭をぶつけちゃったからっ」



 カアッと顔が熱くなるのは誤魔化せなかった。

 とても幼稚園児とは思えない発言にうろたえるあたしを見て、お兄さんが「ったく、お前らはもう向こうに行ってろ」と二人を手で払う仕草を見せる。



「あーあ、あたしはいつになったら実ちゃんと恋人同士になれるのかしら」

「一加ちゃん、そんなに焦らなくても僕がいましゅよ」

「マー坊じゃ埋まらない気持ちってものがあるのよ」

「むむ···埋まらない気持ちでしゅか···」

「このマセガキ共···」

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