第3章 *・゚・ゆりかごに甘噛み *・゚*【真島】
会社のお金を横領した疑いをかけられたのは、一年前の話だ。
まったく身に覚えのないことだった。
数日後、上司の濡れ衣を着せられたのだと知った。
重役たちもそれはわかっていた口振りで、なにやら都合の良い言葉を並べ立て、わたしに辞職をするよう迫った。
警察には突き出さない。訴訟も起こさない。君の未来のために示談で済ませたいとわけのわからないことを言う。
証拠は揃っていた。上司のしたことがすべてわたしの仕業に仕向けられ、それらしく見える映像も残されている状況を前に、無実を証明することが難しかった。
社内にはわたしの言い分を信じると言ってくれた人もいたけれど、どこか表面的なものばかりな気がした。
どれだけ不服を申し立てても揉み消され、瞬く間に自分の居場所が失われていく。
警察沙汰にも裁判沙汰にもしないのは、不祥事が世間に知れたら会社に不利益を及ぼすからにほかならない。
わかっていたのに、どうにもならなかった。
孤立する社会の中で、気力を削がれ続けていくだけの日々に、とうとうわたしは自らの手で終止符を打つことを決めた。
辞職した日、真島に出会った。
酔っぱらっていたわたしは事の経緯を真島にすべてぶちまけていたらしいが、そのときの記憶はすっぽりと抜け落ちている。
「っ、ほんとは、こわい」
「あ?」
「就職しても、また、裏切られるんじゃないかって」
"ここ"は、犯罪率というものが著しく低い国らしい。
生まれたときからそうだった。
それは、わたしたちがなに不自由なく幸せに暮らしている証なのだと。
これまでずっと、疑うことなく生きてきた。
これからも、疑うことなく生きていく、はずだった。
「あんな奴ら、みんな、死ねばいい···っ」
世間には決して知られることのない場所で、誰かが理不尽の犠牲になっていると知る。
それを平和と呼ぶのなら。
それを健全と唱えるのなら。
世界は総じて滑稽だ。
「なら、殺しちまえばいい」
「え、···っ、つ!」