第3章 *・゚・ゆりかごに甘噛み *・゚*【真島】
炒め終えたライスは楕円形に皿に盛り、薄焼き玉子で被せて包む。
トッピングは青ネギと、棚の奥に眠っていた海苔を手で雑にちぎって適当に散らす。
加えて大根おろしとか大葉とか、キムチなんかもあればなお良いらしいとレシピにはあるけれど、家にそんなたいそうなものはないので今回はしかたない。
「オムライスにポン酢だ? お前正気か?」
「レシピにちゃんと載ってるんだし大丈夫でしょ。評価も高いよ?」
真島は食べるのか微妙な返答だったので、大きめのウッドプレートに1.5人分ほどの量を盛り付けて、ローテーブルまで運んだ。
真島が食べるのならこれを二人で食べればいいし、食べなくても今のわたしなら1.5人分なんてぺろりだ。
「ポン酢はかけすぎないほうがいいんだって」
「ふうん」
真島はパソコン用チェアーに深く腰掛け、スマホをいじりながら興味なさそうに相槌を打つ。
わたしは構わずポン酢をかけて、オムライスを口に運んだ。
「うわ、美味しい」
真島の横目がちらりとこちらに流れたのがわかった。別にひけらかしたくて口に出したわけじゃない。本当に美味しくて、思わず漏れてしまった感嘆だった。
真島もそれは察したようで、「真島も食べたら?」と今一度勧めると、意外にも「ああ」と即答した。
ひとつしかない使用済みのスプーンを真島に渡せば、真島も別段躊躇わず同じスプーンにかぶりつく。
「へえ···思ったより悪くねぇかもな」
素直じゃない言い方だ。とはいえその後も続けて何口が食べてくれたので、わりと気に入ったとみた。
わたしもケチャップオムライスより、この和風オムライスのほうが好みかもしれない。
手間もかからないし、これから自炊の定番としてマイメニューに加えよう。
「お前、仕事はじめんの?」
「ああ···それね。まあそろそろなんかしないとなとは思ってるけど」
床に転がる求人雑誌に目を向けて、わたしはやる気のない声で答えた。