第3章 *・゚・ゆりかごに甘噛み *・゚*【真島】
気づけば一夜を共にしていた。
それから真島は月に一度くらいのペースでわたしの家を訪れるようになった。
事前に都合や合意を確認し合うことはなく、当日会えるかどうかはお互いのタイミングが重なれば、ということになるのだけれど、わたしは一年前からほぼ引きこもりの状態なのですれ違うことはまずないし、真島がやってくればすんなりと家に招き入れている。
真島はなにを考えているのかよくわからないような男で、わたしも逐一彼を深く追求したりはしない。
アクションもののDVDやお酒、どこで買ったのかよくわからない海外のお土産を持ってきてくれるときもあれば、ただやってきて、セックスだけしたらすぐに帰っていく日もある。
彼のすることはすべて気まぐれなのだと割りきっている。
「お腹すいたね」
「ん? ああ、まあ、多少はな」
「なにか食べるなら簡単に作るけど」
「お前の家だろ。好きにすりゃいい」
「···あ、そ」
真島は変わらず張り合いのない返答をする。
頼みごとのひとつでもしてもらえれば、こんなわたしでも誰かのためになにかをしている気分を味わえるのに、察してくれない男だ。
そこまで考えている自分に嫌気がさして、またため息が漏れた。社会から長く隔離されていると、他力本願の受け身姿勢に徐々に思考が偏っていくような気がする。
キッチンスペースへ向かい、なにを作ろうかなと、自分の背よりも低い冷蔵庫を開けてみて、愕然とした。
たまごが四つとラップに包んだ牛豚挽き肉の余り。玉ねぎが半分。カット済みの青ネギが少々。
なんでわびしい冷蔵庫なんだろう。これじゃあ本当にささやかなものしか作れないじゃない。
自分の頭ではなにも思い浮かばず、なにかいいレシピはないものかとスマホに指を滑らせる。すると、"挽き肉で作る和風オムライス"というそそられる文字を発見し、迷わずにタップした。
刻んだ玉ねぎと挽き肉を炒めたものに、昨晩冷凍しておいた余り物のご飯を解凍し混ぜ合わせ、バターと醤油で味付けをする。
これだけでも食欲そそられる匂いがワンルームに満ちていく。