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ゆりかごに甘噛み (R18)

第3章 *・゚・ゆりかごに甘噛み *・゚*【真島】



「War Is Over、ねえ」



 ベッドから体を起こし、腑に落ちない口調で真島は言った。

 無機質な空間に差し込む真昼の外光は白さがまばゆい。すぐそばの窓を覆うウッド調のブラインドが抉じ開けられると、わたしは反射的にまぶたを閉ざし眼球に蓋をした。

 観葉植物の鮮やかな緑色だけが、束の間の光合成を待ちわびていたように本来の色彩を取り戻してゆく。

 灰色のコンクリートで囲われたデザイナーズマンションのワンルームにはどこか不釣り合いな、だからこその温もりを欲して買ったモンステラやシェフレラ。



「···ハッピークリスマス?」

「いいや、なんでもねぇよ」

「ふうん···。じゃあ、今日はもう帰ったら?」

「おいおい、久々に会ったってぇのにそりゃねぇんじゃねぇの? 半端に終わっちまったこと根に持ってるってか?」

「別に根に持つとかじゃないけど···。わたし、なにか駄目だったのかなって」

「いや? お前は悪くねぇよ?」

「じゃあなんでだろ」

「さあなぁ、疲れてたんじゃねーの。そういう日もある」

「なおさら帰りなよ」



 思わずため息まじりの言葉が口を突いてでてしまう。

 疲れてるんなら自宅でゆっくりしてればよかったじゃない。そう続くはずだった言葉は飲み込み、寸前で口をつぐんだ。

 馬鹿馬鹿しい、と思う。こんなことで言い合うなんてくだらないし、そもそもわたしたちはお互い必要以上になにかを求め合う関係じゃない。

 恋人でもなければ友人でもない。しいて言うならセフレといったところだろうか。連絡先はおろか、わたしはこの真島という男が普段どこでなにをしているのかも知らないのだ。

 出会ったのは一年前。
 その日、わたしは日付を跨ぐ時間になってもひとりで酒を飲み歩いていた。

 都会の中心。表通りから少し外れた横丁の飲み屋街。

 街中の喧騒とはかけ離れたぬるさを求め、連なる赤提灯の色だけを頼りに覚束ない足を滑らせた。

 三軒目の居酒屋を出たところで酔い潰れ、道端に転がるわたしの前を偶然通りかかったのが真島。

 ほんの一瞬、偶然目が合っただけの真島にしつこく絡んだ酔っぱらい女がわたしだ。


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