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ゆりかごに甘噛み (R18)

第2章 *・゚・夜を結う*・゚*【不死川実弥】



「実弥くん···?」



 顎にかかる手。ふわりと眼前に影が落ち、少し皮膚の硬い親指が下唇を押し下げる。
 それにつられて、寧々もおのずと口を開いた。

 深いキスに導かれる。唇が重なった瞬間から、歯列をなぞられ舌を絡め取られてゆく。



「ふ、ッ」



 熱くて、甘い。ただひたすら求め合うそれに、しばらく溺れた。このまま沈んでしまってもいいと思った。



「どうしたァ···。寂しくなっちまったかァ」



 唇が離れると、至近距離から目の奥を覗き込むように、実弥が語りかけてくる。



「···うん。さみしい」



 直後、実弥の香りが顔回りに漂う。
 引き寄せられて、肩の上に顎が乗る。



「···俺ンち、戻るか?」

「だ、だめ。せっかく送ってもらったのに、それじゃ実弥くんの時間無駄にしちゃうみたいで、心苦しいよ」

「寧々といる時間を無駄に思うことなんざこれっぽっちもねェよ」

「···実弥くん、わたしのこと甘やかしすぎ」

「俺がそうしてェからしてる」

「嬉しい、けども」



 名残惜しいのは、確か。だから、このまま思いきり寄りかかってしまいたくもなる、けども。



「今日は、帰るね。週末、また楽しみにしてるから」



 どうにかぐっと踏みとどまる。
 広い背中に手を回し、もう離してくれて大丈夫だよの気持ちを込めて、赤ん坊をあやすときのように、トントンと叩く。

 これ以上もたもたしていたら、ますます彼の休む時間が減ってしまう。それを奪うことは、極力したくない。

 ぬくもりを手離して、ありがとね、と言いながら助手席のドアを開けたとき、「寧々」と呼ばれた。



「ん?」

「昼間···スペアキー渡したろう」

「うん···あ、もしかして返したほうがいい?」

「いや、持っててくれてかまわねぇ。だが失くしたりすんなよォ」

「ふふ。ちゃんとキーケースの中に大切にしまってあるよ」



 微笑んだ寧々を見て、ふと、まぶたを伏せつつ無言になる実弥。そんな実弥を不思議な気持ちでじっと見つめる寧々に対し、実弥はフロントガラスの彼方へと視線を向けて、もう一度口を開いた。



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