第2章 *・゚・夜を結う*・゚*【不死川実弥】
「あ、でもね。たまーに学園内ですれ違うと挨拶してくれるんだよ。あれ、すごく嬉しい」
「声小っせぇだろう」
「ううん。ちゃんと届いてるから大丈夫」
「そういやァおふくろが、今度寧々ちゃん連れてゆっくり遊びにいらっしゃいってよ」
「え···っ、うそ、ほんっ、本当···っ?」
「狼狽えすぎじゃねェかァ?」
「嬉しい、行きたい···! あ、そしたらお土産用意しなくちゃ。やっぱり甘いものがいいかな? 洋菓子と和菓子ならどっちが喜ばれると思う?」
「んな気ィ遣う必要ねェって。うちは大人数だから土産なんざいらねぇよォ」
「そんなわけにもいかないよ。ちゃんと準備したいから、もし本当にお邪魔できる日が来たら余裕もって教えてね」
「つってもマンションの共用場所じゃ何度か顔合わせたことあんだろォ」
「うん···でもほら緊張しちゃって、ご挨拶するくらいしかできなくて」
「フッ、」
「なんで笑うのー」
「おふくろもおんなじこと言ってたなァと思ってよぉ。あァあと、二人でいるところ邪魔すんのも気が引けるっつってなァ」
「おうちにお邪魔させてもらえたら、たくさんお話してみたいな」
街灯の光が降り注ぐ、真夜中の甲州街道。
オレンジ色に照るアスファルトは変則的な艶めきを放ち、自宅までの道のりに顔を出す心寂しさを、訳もなく誘発させる。
( ···朝になれば、また職場で会えるのに )
もうすぐ家に着いてしまう。
大好きなひとと過ごす時間って、どうしてこうもあっという間なんだろう。
ここへきて、唐突に帰りたくない気持ちが膨れ上がる。
もっとずっと一緒にいたい。
離れたくない。
やっぱり泊まってくればよかったかな···。
そんなわがままな後悔が芽を覗かせたところで、実弥の車がマンションの前の路肩に停車した。
「寧々?」
「あ、ううん···っ、ごめんね。送ってくれてありがとう」
実弥の声にハッとして、慌てながらシートベルトを外す。
膝の上にあるバッグの持ち手を掴もうとした手に、暖かな体温が伝ったのはそのとき。