第2章 *・゚・夜を結う*・゚*【不死川実弥】
「また、好きなときに、いつでも来りゃぁいい。俺がいても、いなくても」
「───…」
「したらそのうち──…」
ザァ···。
寧々の背後で、落葉樹の枯れ葉が渦を巻く。
開いたままのドアから冷えた風が吹き込んで、いくらか車内の熱を奪っていった。
「うん?」
「···いいや···。引き止めちまって悪かった···。ホラ、冷えねェうちに早く中行けェ」
「うん。実弥くんも気をつけてね」
「俺ァ寧々が部屋引っ込むまでここで待機してっからよォ。着いたらメッセしてくれやァ」
「毎回そこまでしてくれなくても大丈夫なのに」
「何が起こるかわかったもんじゃねェからなァ、このご時世」
「実弥くんて過保護だよね」
「······言ってろォ」
こうして寧々は、今夜も折れない実弥にお礼とおやすみなさいを告げて、帰宅後『到着しました!』のメッセージスタンプを送信するのである。
*
帰り道、実弥は愛車を走らせながら、さきほど口走りかけて引っ込めた言葉を思い出し、熱の宿った耳たぶをカリカリと引っ掻いた。
( まだ、スペアキー、渡したばっかだっつぅのによォ··· )
自分の気持ちだけが先走ったような気がして。
「···帰したくねェのは、俺だなァ···」
独り言つ。
『──…そのうち、一緒に暮らさねぇか』
橙に照る道路の先を真っ直ぐ見据える。
いつか言えるその日を願って、実弥はアクセルを踏み込んだ。
* F i n *