第2章 *・゚・夜を結う*・゚*【不死川実弥】
「やっぱり終電間に合わなかった···」
くたりとソファに横たわったまま、寧々は目を閉じ眉間に無念のしわを作った。
「泊まってちまえばいいじゃねぇか」
「···明日同じ服で出勤するのは嫌だなあ」
「あー···。宇髄あたりが絡んでこねェとも言えねェ···」
「実弥くん、車で送って···?」
「そうすっかァ···。酒飲まずにいて正解だなァ」
「疲れてるのにごめんね」
「謝るこたァねぇだろォ。引き止めちまったのは俺じゃねぇか」
「あ、後片付けも中途半端···」
「後で俺がやっから問題ねェよ」
実弥の声が心地よかった。
帰る準備をしなければとわかってるのに、ブランケットにくるまっていると、このままソファの上で寝てしまいそうになる。
「···寧々ー、帰るっつぅなら早く服着ちまえよォ、風邪引くぞォ」
実弥がすぐそばまでやってきて、まるで子供をなだめるようにペチペチと優しく頬を張る。
眠い目をこすりつつ着替えを終えると、最後の仕上げでもするごとく、実弥はなにも言わずに寧々の髪を手ぐしで整え、あくびで目尻に滲んだ涙を親指で優しく拭い取った。
手のひらでポンと弾かれた後頭部は、よし、行くぞ。という合図。
出逢ってから、これまでずっと。
実弥の、言葉ではない優しさに、何度胸が鳴いただろう。
───わたしはこのひとが大好きだ。
*
「ふふ」
「なんだァ突然」
「ううん。ちょっと玄弥くんのこと思い出しちゃって。相変わらずわたしとはあまり目を合わせてくれなかったね」
「あァ、おはぎ届けに来たときかァ」
走行する車の助手席で、等間隔に並ぶ街路樹を流し見ながら、寧々は頬を綻ばせた。
「昨年はすごくびっくりさせちゃったけど、今年もやっぱりびっくりしてた」
「照れくせぇんだろォ。ありゃ思春期特有のモンだなァ···。そろそろ落ち着いてくれりゃいいんだが···。さすがにあのまんまじゃァ将来が不安だぜぇ」