第1章 月島軍曹に出会う
「お父上、ずいぶんご立派な所へ寝かせて頂いておりますなぁ」
銃の準備は整った
女が小銃でも出してきたときには、いつでも殺せる
しかし、その反応は月島軍曹が予想していたどれでもなかった
「っあはははは!!
ざまぁねぇなぁクソ親父がよぉ!!」
「!?」
泣くか此方へ怒りをぶつけてくるか、そのどちらでもなく彼女は大変愉快そうに笑っていた
そして、恐らくねむっているであろう和田大尉を何度も何度も強く踏みつけ始めた
「佐官への昇格が決まってたのに残念だったなぁ?
おい!どうなんだよ!!」
ドンドン、と地ならしが起こり
ギュッギュッ、と雪が強く固まる音がした
あまりの理解に苦しむ行動に、あの軽そうな体型のどこにそんな力があるのだろうか、等と冷静に見入ってしまう
「お前さえ居なければ、私はこんな目にあってねぇんだぞ!
何とか言えよ!!」
「(こんな目……?)」
月島軍曹が呆気に取られていると、大尉がギッと月島軍曹を睨み付けた
思わず下ろしていた銃を再び構える
「それ貸せ!!」
「は?」
彼女はズカズカと月島軍曹の方へ走ってくると、あろうことか銃を貸せ、と命じてきた
拍子抜けしてしまい、彼女に銃を奪われる
しまったと思ったが、彼女が月島軍曹に銃を向けることはなかった
再び走って父親の埋まっているであろう場所へ行くと、地面へと銃を構え始めた
そのまま射撃する
「死ね!死ね!」
何度も何度も爆発音が響いた
籠められていた弾数分を打ってなお、彼女は引き金を何度も引いた
「ううぅ~~~死ねぇ!!」
理由は分からないが、気が収まらないのだろう
彼女の何がそうさせるのかが、月島軍曹には理解が出来なかった
やがて体力に限界が来たのか、彼女はその場に息を荒げながらしゃがみこんだ
「和田大尉殿!」
駆け寄る
「はぁ……はぁ……」
「大丈夫でありますか?」
「はぁ……良いなぁ、月島は」
「?」
「私が…クソ親父を殺したかったのに!」
言うが否や、ずるいずるいと彼女は泣き始めた
子供のようにわんわんと泣いては、月島軍曹の胸を叩く
女慣れしていない月島軍曹は、どうすれば良いか分からず、立ち尽くすばかりであった