第1章 月島軍曹に出会う
焚き火の火がゆらゆらと揺れる
泣き尽くして今度は寒いと凍える大尉を連れ、月島軍曹は近くの洞穴で体を暖めていた
「落ち着かれましたか?」
「……うん」
こくり、と小さく頷く
朴念仁の月島軍曹は、泣いてる女の面倒を見るのは初めてだった
「それで、中央のスパイと言うのは本当なのですか?」
「本当だ」
「その割には、北海道で冷遇されていたお父上の敵で我々に情報を売るわけでは無さそうですね?」
「あー……
そうか、いちから説明しないといけないか……」
「?」
「月島軍曹、貴様私の噂を聞いたことはあるだろう」
「?」
「あれだよ、"便所尉官"だよ」
「?
いえ…申し訳ありませんが、初めて伺う言葉です」
月島軍曹の言葉に嘘はなかった
なんなら和田大尉についても、女が一人陸軍にいる、位でしか話をしたことがなかった
根本的に興味がなかったからだ
「えっ!?
それは誠か!?」
「はい、申し訳ありません?」
「えー……えぇーーー?」
途端に彼女の顔が赤くなり始めた
みるみるうちに、耳まで赤く染まり上がる
「嘘、じゃあこの間のあれは、私ただ頭がおかしい奴ではないか!」
「は、すみません?」
この間の、とは着任初日のあれの事だろうか
まぁ確かに意味が分からない行動ではあった
"便所尉官"とやらに関係しているのだろうか
「その…便所とはなんですか?」
「お前なぁ、私のような非力で功績も出していない、ましてや親のコネも大したことない女がこの年で大尉になったことに疑問はないのか?」
「はぁ、まぁそれは正直なくもありませんでしたが
(スパイで送り込まれたからかと思っていたが、違うのか)」
「貴様、これは月島軍曹だから話すのだからな
誰にでも話してくれるなよ」