第1章 月島軍曹に出会う
「この山で父上が遭難されたのか」
「はい」
件の山へ二人で来た
大尉が馬から降りる
「それで、月島」
「はい」
彼女がキョロキョロしながら歩く
もう少しでお父上殿を埋めた辺りに辿り着くな、と月島軍曹は考えていた
「父上を殺したのは、お前か?それとも鶴見中尉か?」
「!」
ポケットに手を突っ込んだまま、今日の晩御飯でも聞くように訪ねてきた
何故分かったのかと疑問符が浮かぶが、先日のように試されている可能性もあるな、と表情を崩さない
「殺した?
何故そう思われるのです?
お父上殿は旭川への移動中、この山を通った際に天候が悪く遭難されたようです
とても残念です」
「貴様、相当鶴見中尉に信頼されているな
お前が父上殺しに咬んでいない筈が無いだろう
知っている事を全て話せ」
「申し訳ありませんが、何を仰っておられるのかさっぱり分かりかねます
お父上殿は遭難されたのです」
「私は、中央のスパイとして送り込まれている」
「!!」
月島軍曹が彼女の顔を見る
彼女の表情は薄ら笑っており、真意は読み取れなかった
「交渉しよう、月島軍曹
私が知っている情報を全て話すから、父上を埋めた場所を教えてくれ」
彼女の両手は変わらずポケットに突っ込まれていた
小銃を警戒しながら指を指す
三十八式歩兵銃に触る手に力をいれた
「あの辺りです、私が殺して埋めました」
「そうか」
ゆっくりと歩みを進める
理由は分からないが、大尉は月島軍曹に背を向けていた
本当に父上を慕って参りに来ただけなのか、ここで親の敵の月島軍曹を殺すつもりなのかは彼には分からなかった
ただ、彼女が振り向く前に銃を肩から下ろし、いつでも打てるようにと構え始める
彼女が土の下のお父上殿へと話しかけ始めた