第4章 月島軍曹と樺太先遣隊
トイチセ
「臭い臭いッ
何を塗っているのだ!?」
そりの持ち主は、アイヌの女の子の祖父だった
彼らの家で、鯉登少尉が治療を受けている
隣で月島が通訳をしていた
私は杉元や谷垣と奥に座る
「熊の油は傷に良いのだそうです」
「うるさいよ、自業自得だから我慢しな」
鯉登の様子を見てみると、傷は出血の具合よりは浅そうな為、少しホッとした
少女がチカパシに話しかける
「助けてくれてありがとう、名前は?」
「おれチカパシ、ちんちんが勃起するって意味だ!」
「ぼっ…!?」
「ボッキ?」
急な下ネタに顔が赤くなる
杉元が隣で解説してくれた
「アイヌは、名前の付け方が独特なんだよ
アシリパさんも、"新年"とか"新しい"って意味なんだ」
「そ、そうなんだ
そうだね、子宝に陰茎を奉ってる所もあるって聞いたことあるし…」
「まつる?」
「えーと、大事にするって意味かな?
つまり、チカパシは良い名前って事だよ」
「へへ!
ゆめサポもちんちん勃起、大事にしてね!」
「う、うん!」
チカパシは誇らしそうにした、やはりアイヌの価値観では大切な事らしい
他の男性4人は、気まずそうに下を向いていた
「私エノノカ、フレップって意味
フレップ沢山食べてゲーって全部ゲボしたからついた名前」
「他に名付けるきっかけ無かったのかい?」
「北海道から来たアイヌの女の子も、うちでフレップ食べた」
エノノカの言葉に、空気が張りつめた
杉元がアシリパの写真を見せる
どうやら全員の予想は正解のようだ
谷垣と顔を見合わせる
谷垣が続いて、キロランケと言うアイヌ男性の写真を見せた
エノノカの話曰く、彼は"北へ向かう"と言っていたようだ
杉元は続けてアシリパの様子を聞く
彼女は大変落ち込んでいた様子らしい
しかし、エノノカの出したフレップを食べると、少し笑えたと言う
杉元もそのフレップの塩漬けを口にした
「……、しょっぱくて、酸っぱくて甘い…」
エノノカの話を聞いて、アシリパだと確信した彼は、網走監獄襲撃後、初の本当の笑顔を見せた
「(アシリパさん…佐一にとってそれほど大事な子なんだね
どんな子かな……会えるのが楽しみ)」