第3章 月島軍曹と網走監獄
杉元を見つけてからの彼女は酷く取り乱していた
目覚めるまでの数日と目覚めてから、甲斐甲斐しく世話を焼く姿はまるで女房の様だった
「どうやら彼女は杉元と旧友らしい
無いとは思うが、ほだされて二人で逃げ出さないようしっかりと見張っておけよ」
上官の命令だった
しかし、この二人の中睦まじいやり取りを永遠に見張っておくだけの仕事とは、地獄だと思った
「おにぎり美味しい?
頭を撃たれたとは思えない回復だねぇ」
「久しぶりだな、ゆめちゃんのおにぎり
握り方の固さが絶妙で旨いよ」
「それで、その刀がアシリパちゃんって子のものなんだね
どんな子なのかな、会ってみたいな」
二人の空気にいたたまれず家永に話しかけてみるが、気色の悪い話をされ、後悔する
鶴見中尉が杉元を見舞いにくると、二人の空気も温度が変わった
次の日、鯉登少尉と俺は鶴見中尉に呼び出された
場所は杉元の病室で彼女も相変わらず居た
「樺太先遣隊として、二人には出動して貰う!」
隣で鯉登少尉が暴れていた
杉元は、自分も行くと言う
彼女は一連の内容に目を見開いて驚いていた
「(これで彼女の顔を暫く見なくて済むのか)」
樺太への出動を言い渡された時、安堵が一番大きかった
後は、樺太は北海道よりも寒いので嫌だな、と
「(彼女は網走監獄襲撃により、下手をするとクビか降格と言っていたが、本当だろうか
いっそ軍人など辞めてしまえば良いんだ
彼女は好いた男と一緒になるのが良く似合う)」
白無垢姿の彼女を想像してみると、大変しっくり来た
頭の中で隣に居るのは、背の高い男だ
「(そう言えば、あの子がもしも生きているならば、どんな男と一緒になったのだろうか
あのクセっ毛を愛しいと思える男だろうか)」