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月島軍曹を絶対幸せにするマン

第3章 月島軍曹と網走監獄



雷型駆逐艦


「和田大尉殿には、今回我々の監視役を担っていただきたいのです」

「監視役?」

「ええ、見たことを"そのまま"中央に報告して頂きたい」


網走監獄への道すがら、船の先頭で鶴見中尉と和田大尉が何やら相談をしていた
月島軍曹はそれをすぐ後ろで見守る
彼には、今回和田大尉をわざわざ呼び寄せた意味がよく解っていなかった


「(彼女は特に戦闘能力に特化しているわけでも、武器の扱いに慣れているわけでも無いのに何故呼んだんだ?

よりこちら側へ引き寄せるためか?)」


日露戦争経験者とは言え、蓋を開ければ閣下方専用の娼婦であった彼女が特別役に立つとは思わなかった

鶴見中尉と話し終わった彼女は、どこかへ向かっていった
横目で追う

向かった先は、船酔いでへばっている鯉登少尉の所だった

「大丈夫?」

「すんもはん……いつもの事です」

「船弱いんだ、辛いね」


年齢が近いからか、親しげに話しているように感じた
彼女は先日俺の背中にしがみついた手で、鯉登少尉の背中を擦っていた

彼女の頭で、緑色のリボンが静かに佇んでいた


「ゆめどんは優しいでごわすな」

「えー、今更でしょ」

「!」


聞き間違えではない、鯉登少尉は彼女の名前を確かに呼んでいた


"名前で呼んでくれないか"

彼女の声が頭を反響する


「(あれは、俺だけでは無かったんだな)」


急に恥ずかしくなり、軍帽を少し下げる


「(少し自惚れていたな
名前も食事もあの表情も、何ら特別な事では無かったんだろう

ただ、偶然監視役が俺だっただけか)」


彼女の頭の緑色が、風で揺れた



網走監獄へ到着すると橋が爆破した
爆破のお陰で船が通れたため、壁を破壊し続々と兵士達が侵入する

「鶴見、これだけの事をしておいて私は中央にはなんて報告すれば良いんだ?」

「筋書きはこうです
バッタの大群を駆除するため出動、帰港中に網走監獄で暴動が起こっていた為、我々が終息させた」

「ふーん、なるほどね
これで私はクビか降格かもな
今日のために私を温めてたってわけか」


大尉が諦めたように溜め息をつく
俺とも目が合った
その目は"お前もか?"と言っていた


「監獄側の人間が1人でも証言すれば、その報告は成立しませんよ」


知らなかったの主張とは我ながら言い訳がましいな、と思う
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